室内に戻ろうか。そう告げた瞬間だ。
「何だ?」
 どこからか振動が伝わってくる。
「……戦闘?」
 それが何であるのか、キラは知っていた。同時に、何故ここで、と思う。
「ひょっとして、予定が狂った?」
 ぼそっと呟く。
「キラ?」
 何を知っている? とカガリが問いかけてくる。
「地球軍の新型艦が出航すると同時に襲撃する予定になっていた」
 いや、そう上申していたと言った方が正しいのか。しかし、その報告書がクルーゼの元に届いていれば、彼は間違いなく自分の判断を受け入れてくれたはず。
「……ひょっとして、僕からの報告書が隊長達の手に届いていない?」
 その可能性は否定できない。
 だが、今はそれを考えている場合ではないことも事実だ。
「とりあえず、カガリはみんなのシェルターに避難して」
 自分はこの原因を確認してくるから、とキラは続ける。
「ダメだ!」
 しかし、カガリは即座にその提案を否定した。
「私は、私の義務として、全てをこの目で見なければいけないんだ!」
 そうしなければ、判断することが出来なくなる。
「でも、カガリ……君は自分の立場を忘れてはいけない」
 自分とは違って、とキラは声を潜めながら付け加えた。
「それを言うなら、お前だって!」
「そうだね。でも、僕には守ってくれる人も支えてくれる人もいるから」
 これから行く場所にも、きっと顔見知りの誰かがいるだろう。彼等と合流できれば、安全な場所まで連れて行ってもらえる。しかし、カガリはそういうわけにはいかないから。キラはそう続けた。
「何よりも、君はオーブの人間を守らなければいけないんだよ?」
 とりあえずは、ゼミの友人達を……とキラはカガリの顔をのぞき込みながら言う。
「なら、お前だって!」
「大丈夫。僕はコーディネイターだから」
 そして、軍人としての教育も受けている。だから、何があっても対処できる……とキラは微笑む。
「お願いだから、安全なところにいて?」
 それだけで、自分の選択範囲が広がるから、と心の中だけで付け加えた。
「僕の友達をお願い」
 さらにこう付け加えれば、カガリは盛大にため息を吐いてみせる。
「まったく……私はお前に甘いよ」
 本当に久しぶりにあったというのに、その一言でお願いを聞いてしまうのだから。そう言ってカガリはため息を吐く。
「無事でいろよ?」
 絶対に死ぬな。キラの瞳をのぞき込みながら彼女はそう告げた。
「もちろんだよ」
 自分は死なない。死んだら、カガリだけではなく、ミゲルとも会えなくなるから。そう言ってキラは微笑む。
「やっぱ、そいつ殴る!」
 何か許せない、とカガリは拳を握りしめる。
「カガリ?」
「全部終わったら、連れてこい! 一発殴ってやらないときがすまない」
 それで許してやるから、と彼女は続けた。
「カガリ……あのね」
 何と言えばいいのか、とキラはため息を吐く。
「それはともかく、カガリも気をつけて。絶対に死んじゃダメだよ?」
 全部終わった後なら、ミゲルを殴ってもいいから……と告げる。もちろん、心の中で本人には謝っていた。



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