戦局は硬直状態にある。現状はほぼ、陣取り合戦だと言っていいのではないか。
「……でも、バランスを崩すような要因があれば……」
 この状況は大きく変わるだろう。キラはそう呟くと、深いため息を吐く。
「そろそろ、潮時、かな?」
 さらにそう付け加えたときだ。
「キラ!」
 友人の声が耳に届く。それにモニターから顔を上げれば、こちらに駆け寄ってくる少女の姿が確認できた。
「ここだよ、ミリィ」
 そう言いながら、モニターに表示されているファイルを別のものへとすり替える。そこでは、ザフトの勝利が告げられていた。
「……ニュース?」
 モニターに映し出されている映像を見て、ミリアリアが顔をしかめる。
「今度は、どこ?」
 その後を追いかけてきたトールもまた、同じような表情を作った。それは仕方がないことなのだろうが、と心の中で呟く。
「華南だって」
 ため息混じりにキラはそう言う。
「華南? 本土の直ぐ傍じゃん!」
 キラのその表情を別のものと勘違いのしたのか。トールは叫ぶように口にした。
 ひょっとして、彼はザフトがオーブにまで手を伸ばすと思っているのだろうか。そんなことなんてあり得るはずがないのに、とキラは心の中で呟く。
 ザフト――いや、プラントにはオーブの存在が重要なのだ。
 しかし、それを彼等に説明するわけにはいかない。だから、視線をモニターに戻すだけにしておく。
「大丈夫かしら……」
 ミリアリアが不安そうに呟いたのは、きっと親戚が本土にいるからだろう。
「大丈夫だよ。オーブは中立だもの」
 大切な人々を心配する気持ちまで否定する気はない。だから、安心させるようにこういった。
「それよりも、何?」
 用があったのではないか、とキラは問いかける。
「そうだ! 教授が探していたんだ」
 このセリフに、思わず体から力が抜けてしまう。
「また?」
 昨日の分も終わっていないのに、と盛大にため息を吐いた。
「最近、やたら多いよな、本当に」
 そう言えば、とトールが顔をしかめる。
「そうよね。キラにだって、他に課題があるわけだし……勉強に支障が出ているとすれば、おかしいわよね」
 ミリアリアも憤慨を隠せないという口調でこういった。
「何か焦っているのか?」
 不意にトールがこう呟く。
「焦っているって、教授が?」
 何を、とミリアリアが聞き返した。
「そうだよね。ちゃんと論文も出しているし、それの評価もいいって聞いたよ?」
 自分たちの成績なら、悪いのは自分たちの方だし……とキラは口にする。
「だよなぁ」
 いつもお世話になっています、とトールはキラに頭を下げてきた。
「いいよ。それ以外のところでトールとミリィにはフォローして貰っているし」
 だから、その位は気にしなくていい。ほほえみと共にそう言い返しながらも、心の中では別のことを考えていた。
 焦っているのはカトーではなく地球軍か、開発を請け負っているモルゲンレーテの技術陣だろう。
 あれらのロールアウトが近いからだろうな、と微かに眉を寄せる。
「ともかく、ラボに行かないと……」
 不本意だが、とキラはため息とともに付け加えた。
「だよなぁ」
 トールもそれに頷いてみせる。
「ちょっと、待っててね。今、片づけるから」
 言葉とともにキラはパソコンの電源を切ろうと手を伸ばした。しかし、ツールバーにメール着信の表示が出ている。反射的に中身を確認した。
 次の瞬間、ますます眉が寄ってしまう。
「どうしたの?」
「……何か、早く帰ってこいって」
 何かあったのかな、と口にしながらも、キラは今度こそ電源を落とす。そして、テーブルの上にあったものを鞄の中へと入れ始めた。



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