あの日からキラの行方を捜してきたにもかかわらず、その影すら見つけられないのはどうしてなのか。
 もちろん、どの隊に誰がいるか。そのような配置は極秘事項だといっていい。
 しかし、自分は《ザラ》なのだ。その自分にまで秘密にする必要があるのか。
 そう考えると、アスランは苛立ちを隠せなかった。
 しかも、だ。
 地球軍の愚かな行動のせいで世界は一息に戦争への道をたどり始めていた。
 ユニウスセブンへの被害は、クルーゼ隊をはじめとするザフトの精鋭達のおかげで最小限に押さえることが出来た。しかし、だからといって地球軍への怒りが収まったわけではない。多くの若者達がザフトへ志願している。
 国防委員長の息子である自分も例外ではない。
 おそらく、近いうちにアカデミーに入校することになるだろう。
「……そう言えば、キラはアカデミーに進学したんだったな」
 あるいは、そこでならキラの居場所がわかるのだろうか。
「可能性はあるな」
 卒業していった者達のデーターが残されているに決まっている。
 それを閲覧することは可能ではないか。
 ダメだとしても、場所さえわかれば何とでも出来る。
「ハッキングは、キラが得意だったな」
 だからといって、出来ないわけではない。
「キラを取り戻すためなら、なんだってするさ」
 そもそも、自分からキラを取り上げたのは父をはじめとする最高評議会だ。そんな彼等に何を言われたとして気にならない。むしろ、その結果、ラクスとの婚約がなくなるのであれば、喜ばしい。そんなことも考えてしまう。
「キラが傍にいてくれれば、それでいいんだ」
 それだけで、自分は満足できる。
 どのような無理難題を並べられても乗り越えられる、とすら思えるのだ。
 それは父も母も知っているはずだったのに、何故、彼等は自分からキラを取り上げるようなことをしたのだろうか。
「……俺の傍に、キラをおいておけない理由でも、あるのか?」
 それも、自分にではなくキラの方に……とアスランは呟く。
「そう言えば……俺は、キラの家族のことを何も知らない」
 キラの両親がどのような人たちだったかはよく覚えている。しかし、彼等がどのような家の出身なのかは知らない。
「そして……キラの後見人は母上ではなかった……」
 それはつまり、レノアよりもキラと近しい存在がこのプラントにいた、と言うことだ。
「……それも、関係しているのか?」
 キラの行方がわからないのは……と口にする。
「ともかく……アカデミーに入れば、きっと、何か糸口がつかめるはずだ」
 悩むのはそれからでもいい。
 いや、キラに会えば悩みなんて吹き飛んでしまうのではないか。
 アスランはそう考えていた。

 いったい、どうやっているのか――非合法な手段を使っているということは十分に想像できるが――毎日のように届くメールだけが今の自分たちをつなぐ絆だ。
 「会いたいよな、やっぱ」
 元気だと言うことは知っている。そして、それなりに楽しく過ごしているらしいことも、だ。
 しかし、それだけでは物足りない。
 そう考えてため息を吐いたときだ。いきなり端末が自己主張を始める。
「……何だよ……」
 自分は今休憩時間なのに、とため息を吐く。だからといって、無視することを出来ないというのも事実だ。
 仕方がない、と心の中で呟きながら立ち上がるとそちらへ向かっていく。
「はい」
 端末を操作するとそう呼びかけた。
『私だ。すまないが、来てくれないかね』
 至急相談したいことがある。そう付け加えるクルーゼの声音に、どこか忌々しいという感情が見え隠れしているのは、錯覚ではないだろう。
「わかりました」
 しかし、それはどうしてなのか。そう思うが、行けばわかるという気持ちもある。
「直ぐに伺います」
 そう告げれば、彼は小さく頷く。そして、そのまま通話を終わらせた。
「厄介ごとか。キラに関係していることでなきゃいいんだが」
 そう呟くと同時に、彼は放り出してあった上着を拾い上げる。そして、それに袖を通しながら部屋を後にした。

 しかし、どうしてそう言うことになったのか。
 クルーゼが頭を抱えたくなるのもわかる。そう思いながら、ミゲルは深いため息を吐いた。



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