「本当に、君は大物ばかり釣り上げてくれる」
 地球軍のMS開発計画。
 ある意味、予想されていた事柄ではある。しかし、それが現実として突きつけられるとは思っていなかった。と言うよりも、地球軍の技術力では不可能だと思っていたのだ。
「……それで、どこで見つけたんだ?」
 どうやら、地球軍のマザーではなかったようだが、とミゲルは問いかける。
「……モルゲンレーテ……」
 ぼそっとキラは呟くように告げた。
「モルゲンレーテ?」
 嘘だろう、と思わず言い返してしまう。
 理由は簡単。
 モルゲンレーテは地球連合に賊している企業ではない。オーブの中心企業だ。
 そして、オーブは中立。
 どちらの勢力にも与しない――いや、与してはいけない存在だ。
「何で……」
 ミゲルは思わずこう呟く。
「……あり得ない話ではないね」
 しかし、クルーゼは違ったようだ。どこか納得したという表情で頷いている。
「隊長?」
 いったい何を根拠に、彼はそう言うのだろうか。
「オーブも一枚岩ではない。首長家の中には主張を異にしている者達もいるのだよ」
 困ったことにね、とクルーゼはため息とともに告げる。
「アスハはコーディネイターにも等しく接している。しかしセイランは、あくまでも優秀な《道具》扱いをしているのだよ」
 表面上は人権を認めているようだがね、と付け加えられた言葉に、ミゲルは眉根を寄せた。その可能性があると知識として知っていても、実際に突きつけられたことはなかったのだ。
「それ以上に厄介なのは、サハクだがね」
 あの家の次代がどう動くか。それがオーブの今後にとって大きな意味を持っているだろうね……と彼はさらに言葉を重ねた。
「……でも、カガリもロンド・ミナ様もロンド・ギナ様もコーディネイターに不利なことはしないと思います」
 キラが小さな声でそう言う。
「わかっているよ。しかし、個人の思惟だけではどうにもならないのが国だからね」
 もちろん、キラがここにいる以上彼等がそれなりに頑張ってくれているのは事実だ。クルーゼのこの言葉に、ミゲルは違和感を感じる。
 そう言えば、キラの両親が今、どこにいるかを自分は知らない。
 それと彼の言葉と関係があるのだろうか。
「それで、キラ」
 話題を変えようとするかのように、クルーゼは視線を向ける。
「君の目から見て、このMSのできはどうかな?」
「……システムだけではなくハードだけ、と言うことでよろしいでしょうか」
 そして、使用するのがコーディネイターと言うことで。キラがそう聞き返す。
「ずいぶん厳しくないか、その条件」
 ミゲルは思わずそう問いかけてしまった。
「だって、これのシステム関係のデーターは見つけられなかったし……ナチュラルが使ってどれだけの動きが出来るのか、想像できないんだもん」
 それに彼女はそう言い返してくる。
「なるほど。言われてみれば納得」
 確かに見たことも聞いたこともないものは想像のしようがないか。そう付け加えた。
「それで構わないよ」
 クルーゼもそれは同じだったのか。鷹揚に頷いてみせる。
「そうですね。ジンと同じレベルのOSが組み込まれる、と仮定すれば……おそらくシグーと互角レベルでしょう」
 相手が新兵でも、とキラは付け加えた。
「それって……」
「残念だけど、かなり上だよ」
 モルゲンレーテの技術力がそれだけ優れていると言うことかもしれないけど、とため息とともに告げる。
「やはり、侮れぬ国のようだね」
 クルーゼはそう言った。
「逆に言えば、それらが欲しいね」
 彼はそう続ける。
「いっそ、君も開発に加わるかい?」
 何か楽しいことを思いついたのか。口元に笑みを刻みながら彼はキラに向かって問いかけた。
「隊長?」
 いったい何を、とキラが言い返す。
「ふむ。それがいいかもしれないね」
 しかし、彼はあっさりと頷く。
「まぁ、それに関しては情報局その他と調整をしなければいけないが……」
 それでも、キラには一度、オーブに行ってもらうことになるだろう。
「隊長!」
「少なくとも、その間は戦場から離れられるだろうね」
 おそらく、そちらの方が優先順位が高いのではないか。クルーゼの声音からミゲルはそう判断をする。
「ですが……」
「君以外、出来ないことだろう?」
 そうすることによって、地球軍に余計な力を与えないことにもなる。違うか、と言われてキラは言葉を封じられたようだ。
「確かに、ミゲルと離れるのは寂しいかもしれないけれどね」
 しかし、こう付け加えられるとは思わなかった。
「隊長!」
「それは……」
 焦る自分たちを見て、クルーゼは笑い声を上げる。ひょっとして、からかうためにそんなセリフを言ったのかとすら思ってしまったほどだ。
 だが、彼が仕事に関してそんな冗談を言うはずがない。と言うことは、本気なのだろう。不安と寂しさをはき出すかのように、ミゲルはため息を吐いた。



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