かたかたと音を立てながら、キラはキーボードを叩いている。その姿を横目に、ミゲルはミゲルで、書類に目を通していた。
「……これは、隊長権限でないと無理だな」
 内容を見てそう判断をすると、同じような書類の山の上へと移動させる。
 そのついでに時刻を確認すると、そろそろ昼食の時間だ。
「キラ」
 書類を一度、全てデスクの上に置く。そして、彼女の華奢な背中に向かって呼びかけた。
 だが――いや、当然と言うべきか――キラから言葉は返ってこない。
 もちろん、それは最初から予想していたことだ。
 小さなため息を吐くとミゲルは立ち上がる。そして、真っ直ぐにその傍に歩み寄った。
「飯だぞ」
 言葉とともに肩に手を置く。
 その瞬間、彼女の肩が大きく跳ね上がる。
「……あっ……」
 そのまま、ゆっくりと視線をミゲルへと向けた。
「飯に行くぞ」
 にっと笑うと同時に、ミゲルは彼女の脇の下に手を入れた。そのまま強引に立ち上がらせる。
「ミゲル!」
 何を、とキラが反論してきた。
「だから、飯! 三食、ちゃんと食わせろっていうのが隊長の命令だからな」
 と言うわけで、食堂に行くぞ……と彼は続ける。
「でも……」
 そう言われても、とキラはまだ納得していないようだ。
「また侵入するとなると大変なんだけど……」
 だから、とキラは首をかしげた。
「テイクアウトしてきて」
 ここで食べられるような何かを、と彼女は続ける。
「ダメ?」
 上目遣いでお願い事を口にするのは反則だろう。そう言いたくなるくらい可愛い。
「……まったく……」
 そして、それにあっさりと乗せられる自分も自分だ。こんなに甘やかしてはいけないのではないか。そうは思うが、この程度のお願い事なら構わないかとも思ってしまう。
「まったく……仕方がないな」
 ただし、ちゃんと食べろよ? ととりあえず念を押しておく。
「わかってる」
 言葉とともにキラはミゲルの腕の中から抜け出した。そして、またモニターの前へと戻る。その様子に、ミゲルはまたため息を吐いた。
 同時に、何を見つけたのだろうか。そんな疑問もわき上がってくる。それがキラをここまで駆り立てているのだろう。
「今日は、戻ってくるのかね、隊長」
 キラの側を離れながらこう呟く。
「この調子だと、まじで大物を釣り上げかねないぞ、あいつは……」
 その結果、また大混乱が起きそうだ。
「しかし、情報局の連中は大変だよな」
 キラが集めてきた情報の裏を取らなければいけないために、右往左往しているらしい。同期の連中は、諦めているようだが、その上官達は、どうやって集めてきたのかわからない情報に頭を抱えているとか。
 そんな情報の中に、さらに爆弾を投下してくれそうだし。
「端で見ている分には、楽しいんだがな」
 自分がその中心に近いところにいるとなると話は別だ。
「……ともかく、飯だな」
 ため息とともにそう呟く。キラに食べさせて、それから書類の整理を終わらせてしまわないと。
「たまには、シミュレーションでもしたいよな」
 そんな時間が取れればいいのだが難しいだろう。
「まぁ、隊長が戻ってきて、キラの傍にいてくれるなら、少しぐらいは大丈夫か」
 そう呟くと、ミゲルはさらに足を速めた。



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