流石のクルーゼも、この状況は想像していなかったらしい。
「これは……」
 どうしたものかね、と呟きながら、キラが渡したデーターをにらみつけている。
「だが、この情報が手に入ったことは幸いだ、というのは事実だ」
 あらかじめ対策を取っておくことが出来るからね、と彼は続けた。
「隊長……」
 しかし、それは彼に負担をかけることではないのか。キラの瞳がそう問いかけている。
「心配はいらないよ。私に任せておきなさい」
 そんな彼女の気持ちを、彼もまた的確に読み取ったのだろう。クルーゼは微笑みながらそう告げた。
「それよりも……そうだね。もう少し他の情報を探してくれるかな?」
 ミゲルをフォローにつけるから、と彼は続ける。
「はい」
 確かに、そうするのが当然だろう。
「ミゲル。わかっていると思うが……」
「他の連中にもばれないように、ですね」
 今、それを知ったなら先制攻撃を主張する者達が増えてくるのではないか。それを、最高評議会が止められるかどうか、わからない。
「……こちらから戦端を切るわけにはいかないのだよ」
 ため息とともにクルーゼはそう言う。
「そのせいで、オーブとの関係を悪化させるわけにはいかないからね」
 この言葉を耳にした瞬間、キラが大きく体を震わせる。
「キラ?」
 どうかしたのか、とミゲルは問いかけた。
「大丈夫……何でも、ない」
 キラは即座にそう言い返してくる。しかし、そうは思えない。
「オーブに知人がいるだけだよ」
 それに答えを返してくれたのはクルーゼだ。
「心配はいらない。それよりも、情報は多い方がいいからね」
「わかっています」
 直ぐにでも取りかかります、とキラは言葉を返している。その瞬間、クルーゼの笑みに苦いものが含まれた。
「そう言うことだからね、ミゲル」
「わかってます。適当なところでパソコンから引き離せばいいんですよね?」
 そうでなければ、倒れるまでパソコンに張り付いて情報を集めようとするだろう。その熱心さは感心するが、見ている自分の精神的にはよくない。
「あぁ。頼むよ」
 おそらく、自分にはそれをしている時間がないはずだ。クルーゼは言葉とともに腰を上げる。
「整備の方には私の方から連絡をしておこう」
 それと、と彼は続けた。
「必要なら、ここを使うといい。少なくとも、不用意に誰かが近づいてくることはない」
 そして、キラとミゲルが、自分の代わりにあれこれと仕事をするのは最近普通になりつつあるのだ。だから、誰も違和感を感じないのではないか。彼はそう続ける。
「ただし、不埒なことはしないようにね」
 低い笑いと共にクルーゼはそう付け加えた。
「そんなこと、しません!」
 少なくとも、ここでは!! とミゲルは叫び返す。
「まぁ、君の理性は信用しているよ」
 とりあえず、だが……と言われて、喜ぶべきか。それとも、とミゲルは悩む。
「……不埒なこと?」
 だが、二人とも彼女の存在を忘れていた。
「それって、どんなこと?」
 意味がわからない、と彼女は首をかしげている。と言うか、その手の知識は全くないらしいのだ。それがわかっているから、自分も手を出しかねていると言っていいのかもしれない。
「……クルーゼ隊長……」
「ラクスさまに、お話ししておこう」
 彼女であれば、正しい知識を与えてくれるのではないか。そう彼は告げる。
「私も、ここまでだとは思っていなかったよ」
 教育の方法を間違えたのか。それとも、誰かが故意にそうしたのか。調べてみる必要があるのだろうか。そうも付け加える。
「とりあえず、頑張ってくれたまえ」
 クルーゼのこの言葉が、むなしく聞こえた。



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