休暇が終われば、いつもの日常が戻ってくる。
 もっとも、少しずつキラの警戒心がゆるんできているらしいことも感じられた。最近はミゲルが傍にいても、平気でハッキングをするようになったのだ。
 いいのか悪いのか、判断に悩む。しかし、クルーゼですら気にしていないのだ。自分がどうこう言う必要もないだろうとそう結論づける。
「ミゲル」
 その時だ。キラが困ったような口調で彼の名を口にした。
「どうかしたのか?」
 意識を現実に戻すと同時に、そう問いかける。
「お前のことだから、相手に見つかったとは思わないが」
 相手の方が一枚上手だったか? とある意味失礼なセリフを口にしながら傍まで移動した。
「……何か、見てはいけないものを見つけちゃった……」
 そんな彼に、キラはこう呟きながらモニターを指さす。
「何を見つけたんだ?」
 こう言いながら、ミゲルは視線をモニターに移す。そこには何かの企画書のようなものが表示されていた。その内容を読み取った瞬間、彼もまた凍り付く。
「……マジ?」
「だよね……」
 こんなこと、冗談で計画をするわけがない。キラは呆然とした表情のまま付け加える。
「ともかく、だ」
 自分たちはこれをどうすればいいのだろうか。考えなくても結論は一つしかない。
「隊長に連絡、だな」
 そして、彼の判断を仰ぐ。それしかないだろう。
「やっぱり、そうだよね」
 ため息とともに呟く。そのまま、キーボードに指を走らせる。おそらく、目の前の情報を保存しているのだろう。
「……しかし、そこまでするか?」
 いくら、自分たちが気に入らないからと言って……とミゲルは眉を寄せる。
「どちらにしても、これが実行されたら、戦争は避けられないぞ」
 そうなったらどうなるのか。
 もちろん、自分が戦場に立つのは構わない。最初から、その覚悟は出来ている。
 しかし、キラは……と考えると複雑な気持ちになるのだ。
「コピー出来たけど……隊長、今、時間、あるのかな」
 不意にキラはこう言ってくる。
「なくても空けてもらうしかないだろうな」
 内容が内容だ。一刻も早く対処を取らないとまずいだろう。ミゲルはそう言い返す。
「だよね」
 そう言いながら、キラは立ち上がった。そのまま端末へと駆け寄っていく。おそらく、クルーゼに連絡を入れるつもりなのだろう。
「俺も、一緒にいた方がいいよな」
 キラ一人でも十分だろうが、念には念を入れた方がいいのではないか。そう考えてその後を追いかけていく。
『何かね、キラ』
 そうすれば、クルーゼがそう言ってきているのがわかった。
「ちょっと、見て頂きたいものがあるのですが……」
 できれば、内密に……とキラは告げる。
「ついでに、一刻でも早く、ですね」
 そんな彼女の肩越しにミゲルはフォローの言葉を口にした。
『ふむ』
 その言葉に、クルーゼは考え込むような表情を作った。だが、直ぐに何かに気が付いたというように頷く。
『何か、厄介なものを見つけたようだね、キラ』
 そして、どこか楽しげな声音で彼はこう言って来た。
「否定しません」
 キラは即座に頷く。
『今なら、大丈夫だよ。状況次第では、この後のスケジュールも空けられる』
 だから、大至急おいで。恋人に聞かせるような甘い響きを滲ませながらクルーゼはそう告げた。その事実に、少しだけ苛立ちを感じる。しかし、相手は上司で、キラの保護者だ。だから、とミゲルは気持ちを落ち着かせる。
「わかりました」
 直ぐにお伺いします。二人は声をそろえてそう言い返した。



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