キラはラクスと話があるという。だから、ミゲルは弟と先にその場を辞した。 「母さんがふてくされるな」 彼女を連れてきて欲しい。そう言っていたのだが……とため息混じりに呟く。 「でも、ラクスさまの方が優先でしょ?」 弟が即座にこう言ってきた。 「何か、ものすごく仲良さそうだったし……ラクスさまとキラさん」 それは否定できない。 だが、だからこそ面白くないと思ってしまう。 「まぁ、仕方がないか」 親友だと行っていたし……とミゲルは自分に言い聞かせるように呟く。 「俺はまたすぐに、一緒にいられるようになるしな」 彼女の方が一緒にいられる時間が短い。だから、妥協するしかないのだろう。 「でも……どこで知り合ったんだろうね」 首をかしげながら呟くように口にした弟の声に、ミゲルは直ぐに言葉を返せない。 「……あいつは、デュランダル議員の家でお世話になっているそうだから……その縁じゃないか?」 もっとも、彼が穏健派かどうかは知らない。だが、関係があるとすればそのあたりだろうと思う。 「そうなんだ」 凄いね、と彼は頷く。同時に、手にしていたラクスのサイン入りのパンフレットとディスクを抱きしめる。 「でも、そのおかげでラクスさまに直接サインをもらえたし……満足」 「そうか」 よかったな、とミゲルは彼の頭に手を置いた。 「後でお礼のメールを送らないとな」 「うん」 そうする、と直ぐに答えてくれる弟は、どうやらキラを気に入ったらしい。これならば大丈夫か。そんなことを考えていた。 ミゲル達兄弟がのんびりと家路に就いていたころ、キラはラクスと共にエレカに乗っていた。断り切れずにクライン邸に泊まることになってしまったのだ。 「わたくし、婚約をすることになりましたの」 その車内で、いきなりラクスはこう言ってきた。 「婚約?」 それが婚姻統制によるものだ、と言うことはキラにもわかっている。 「……おめでとう、と言っていいの?」 だから、こう問いかけてしまった。 「あまりめでたくないかもしれませんわ」 義務の一つだ、とラクスは微苦笑と共に言い返してくる。 「まぁ……まだまだ先のことですす、これでキラに対する危険が減るのであれば、わたくしは構いませんわ」 その表情のまま、彼女はこう告げた。 「……ラクス?」 と言うことは、彼女は相手を嫌っているのだろうか。だが、彼女がそんな感情を抱く相手、と言って思い浮かぶ人間はそういない。 「えぇ。あなたが思い浮かべている相手、ですわ」 キラの内心を読み取ったのか。ラクスはため息とともにこう告げる。 「……アスラン?」 おそるおそる、そう問いかけた。 「えぇ。あのへたれバカですわ」 そのセリフは何なのか。 「今日も、来ていましたのよ?」 もっとも、最前列で爆睡してくれていたが、と忌々しそうに付け加える。 「あなたの存在にも気付くか、と思いましたが、違いましたでしょう?」 あれだけ『キラ、キラ』と騒いでいたくせに、と彼女はさらに言葉を重ねた。 「でも、僕は今日、こんな恰好だったし……」 「そんなのは関係ありません」 外見や性別は関係ない。どのような姿をしていようと、キラはキラだ。 だから、その程度でわからないのであれば、彼が《キラ》と言う人間の本質を見ていなかったと言うことになるのではないか。 つまり、彼は自分の傍にいて、自分の思うとおりになる存在だけを欲していたと言うことになるのではないか……と彼女は続ける。 「その一点だけを取ってみても、ミゲルさまの方がアスランより好ましいと思えますわね」 それは喜んでいいのか。キラはそう思う。 「まぁ……わたくしたちの婚約は半分以上、政治的な意図を持ってのことです。ですから、キラには関係ありませんわ」 あくまでも、義務だと思えばいい。そう言われても、納得できない。 「……ラクス……」 本当にいいの? と視線だけで問いかける。 「大丈夫ですわ。実際に結婚するまでに、しっかりと性根をたたき直させて頂きます」 にっこりと微笑みながら彼女はそう宣言をした。 確かに、彼女ならばそうするだろう。 「それはそれで楽しいかもしれません」 「……頑張ってね」 最後の一言に、そう言うしかできないキラだった。 |