キラの姿を見た瞬間、驚いてしまった。それはきっと、普段、見たことがないようなかわいらしい服装だったからだろう。
「……やっぱり、似合わない?」
 ミゲルのその反応をどう受け止めたのか。キラがこう問いかけてくる。
「いや……凄く可愛い」
 よく似合っている、とミゲルは言い返す。
「本当?」
「本当だって」
 嘘は言わない。そう告げたときに、キラはようやくほっとしたような表情を作った。
「よかった。自分じゃ、絶対に選ばない服だから、ちょっと心配してたんだ」
 家の人はみんな「似合う」と言ってくれたが、だからこそ信用できないのだ……と彼女は苦笑を浮かべる。
「それは、自分で選んだんじゃないのか?」
 そうならば、誰が選んだというのか、と思う。
「ラクス、だよ。チケットと一緒に届けてくれたの」
 キラが口にした名前を聞いた瞬間、安堵してしまった自分がいることに気が付いてしまった。
「なるほど」
 だから、見たことがないんだな……とミゲルは頷く。
「でも、流石ラクスさま、だな」
 よく似合っている、と今度は心の底から口にした。
「ともかく、だ。これがうちの弟な」
 そのまま、ついでというように弟を紹介する。
「初めまして。キラです。今日は付き合ってくれてありがとう」
 にっこりと微笑みながらキラは彼と視線を合わせようとした。だが、彼は何故か視線をそらす。
「……お前な」
 まさか、そんな態度を取るとは思わなかった。そう思いながらミゲルは弟の頭を小突く。
「このまま帰るか?」
 自分としては、その方が嬉しいぞ……と付け加える。
「やだ!」
「なら、どうすればいいか……ちゃんとわかっているよな?」
 そんなガキじゃないだろう? と告げれば、彼はキラの方へと視線を向けた。
「今日は、誘ってくださって、ありがとうございます」
 どこかぶっきらぼうな口調でこういう。と共に頭を下げた。その瞬間、彼の耳がうっすらと赤く染まっていることに気付いてしまう。
 つまり、怒っているわけでも何でもなく、照れているだけだったのか。
 まったく、わかりにくい奴……と心の中で呟く。同時に、キラに対する気持ちは早々に潰しておかないと、とも考えてしまう。
「ううん。一緒に来てくれてありがとう。こういう風に、誰かと来ることはないから」
 だが、キラは気にすることなく言葉を口にした。
「と言うわけで、入ろうか」
 もうじき、開場時間だ……とキラは微笑む。
「あぁ、そうだな。パンフも買わないと」
「……パンフは、あるよ?」
 ついでに、今日発売の新曲のディスクも……と彼女は言った。
「ラクスがくれたから……」
 ミゲル達の分もある、とさらに付け加えられた瞬間、弟が嬉しそうな声を上げる。
「並ぶの大変だからって、言っていたんだけど……そうなの?」
 実は、コンサート会場でラクスの歌を聴くのは初めてなんだ……と少し恥ずかしそうに続けた。
「俺も、実際にコンサート会場に足を運んだのは初めてだからな」
「だって、ラクスさまのコンサートのチケットは、いつも秒単位でsold-outなんだよ」
 買える方が奇跡だ、と弟が口を挟んでくる。
「なら、キラに感謝しないとな」
 おかげで、ゆっくりと見られるだろう? と問いかければ、彼は小さく頷いて見せた。
「と言うことで、行くか」
 それに安心しながら、ミゲルは二人の肩を叩く。それを合図に三人は歩き出した。



BACKNEXT

 

最遊釈厄伝