このままトントン拍子で進まないのは、軍人だから、なのだろうか。それとも、キラの回りにいるのがくせのある人物だけだから、なのか。
 久々の休暇で、それぞれが自宅に帰ることになった。しかし、どこか離れがたいのは、お互いの気持ちを確かめ合った後だからなのかもしれない。
 しかし、だ。
 おそらくクルーゼから連絡が行っていたのだろう。そして、聞いていた時間が過ぎても帰ってこないキラを心配したのか。彼女を迎えに来た人物がいた。写真でしか見たことはないが、彼の名前は知っている。
 だが、どうやって居場所を突き止めたのか。
 それに、と小さなため息を吐く。
「何か……ものすごくにらまれてないか?」
 ミゲルはそっとキラへと問いかける。
「レイ、視力落ちたのかな?」
 それにこう言い返して来る彼女は、本気で状況を理解していないのだろうか。それとも、わかっていてぼけているのか、と悩んでしまう。
 だが、キラの性格を考えれば、絶対に後者だろう……と想像が付く。
「……キラ……」
 お前な、とため息を吐きながらミゲルはその頬に触れた。
「わかっているんだけど……ここまで酷いとは思わなかったんだって」
 レイの態度が、とキラは苦笑と共にその手に自分のそれを重ねてくる。
「まぁ、滅多に家にいないからかもしれないけどね、僕は」
 だから、別の意味で執着されているのではないか。キラはそう告げる。
「なるほど。そう言うことにしておくか」
 本当は、別の理由があるのだろう。だが、それを指摘することでやぶ蛇になってはたまらない。
「迎えが来てしまった以上、帰らないとな」
 不本意だが、とミゲルは苦笑を浮かべる。そして、そっとキラの頬から手を離した。
「うちも、親はわかってくれているだろうが……弟がな」
 あいつも寂しがっているから、と続ける。
「そうだよね」
 確かに、家族との時間も大切だよね……とキラは頷いて見せた。
「まぁ、お前とはまたいつでも一緒にいられるし」
 休暇が空けたら、とミゲルは笑って見せた。
「離れている間に大けがなんてするなよ?」
 ちゃんと足元を見て歩け、と冗談めかして続ける。
「倒れる前にフォローしてやれないからな」
「酷い」
 そこまでドジではない。キラはそう言い返してくる。しかし、それを信用するものは少なくともクルーゼ隊にはいないだろう。
 もちろん、キラをのぞいての話である。
「俺が心配なだけだって」
 しかし、キラの機嫌を損ねるのはまずい。そう判断をして、こう告げる。
「俺が見てないところでケガをされるのがいやなんだ」
 この一言は友好だったらしい。
「……気をつける……」
 渋々と言った様子で、キラはこう言ってきた。
「いいこだ」
 そんな彼女にミゲルはとっておきの笑みを向ける。
「好きだぞ、キラ」
 さらにこう付け加えた。その瞬間、キラの顔が真っ赤に染まる。そう言う反応が、余計に可愛いと思わせていると、本人は気が付いているのだろうか。
「と言うことで、そろそろ行くか」
 でないと、自分が本気で殺されかねない。そうも付け加える。
「いくらなんでも……ラウ兄さん……じゃなくて隊長が許可を出した人にそんなことはしないと思う」
 むしろ、文句はあちらに行くのではないか。そう告げるキラの言葉にミゲルは笑みに少しだけ苦いものを含ませる。
「そのあとで、俺が八つ当たりをされるわけだな」
 隊長なら、絶対にやるな……と心の中で付け加えた。
「あははははは……頑張ってね、ミゲル」
 フォローはしてあげるから。そう付け加えたところから判断をして、キラもその可能性があると思っているのだろう。
「頼むな」
 こう言い返しながら、ミゲルは立ち上がる。さりげなく、伝票を手にしたのは、当然の気遣いだ。
「ミゲル?」
 それにキラが反論をしようとした。
「姉さん!」
 だが、それよりも早く、迎えに来たレイがキラへと駆け寄ってくる。
「じゃぁな、キラ。メールするから」
 それをいいことに、ミゲルは――後ろ髪を引かれつつ――彼女から離れた。



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最遊釈厄伝