キラの側にくっついていることは難しくない。普段から、キラの世話――と言ってしまえば語弊があるだろうか――を押しつけられている身としては、傍にいても誰も何も言ってこない。
 まして、今は、ジンのカスタムのことがある。
「……ミゲル」
 しかし、本人はそうではないらしい。
「何だ?」
「僕にくっついていて、楽しい?」
 モニターから視線を放すことなく、こう問いかけてくる。
「楽しいな」
 ミゲルは笑いながらこう言い返す。
「誰だって、好きな奴の姿を見ているのは楽しいもんだし」
 さらりとこう付け加えたのは、クルーゼにあれこれたきつけられたから、と言っていい。同時に、キラが聞き流したならそれでもいいと思う。
「……好き?」
 しかし、彼女の耳は、しっかりとその単語を拾い上げてくれていた。
「好きって……」
 目を丸くしたまま、キラが視線を向けてくる。
「恋愛感情ってこと、だな。端的に言ってしまえば」
 出来るだけ押しつけがましくない口調を作りながら、ミゲルは言葉を返す。
「……僕が、ここで唯一の女、だから?」
 だから、どうしてそう言う考えになるのか。
「お前を『好きだ』って気が付いたのは、アカデミー時代だけどな」
 こう言い返せば、キラの目はさらに大きく見開かれる。
「アカデミー時代って……」
 そのころ、自分は《男》として暮らしていた頃ではないか。キラはそう呟く。
「別に、男とか女とか、関係ないから」
 と言っても、流石に手を出すのは色々な理由からためらわれたがて……とミゲルは続ける。
「お前が、せめて成人していたら、遠慮なく告白させて貰っていたんだろうが」
 流石に、幼年学校を卒業したばかりのオコサマだったから、遠慮したのだ。そう言って笑う。
「ミゲルって、趣味悪い?」
 お前な、とつっこみたくなる。
「そうか? 俺は正解だったと思っているが」
 代わりに、こう言い返した。
「何で?」
「だって、キラより可愛い相手なんて、いないだろう?」
 何よりも、キラの側にいれば色々と楽しい経験が出来る。それが一番だ。そう言って目を細めた。
「なんて言うのかさ。傍にいるだけで楽しいっていうのは、特別ってことだしな」
 こけるキラを支えるのも、寝ぼけているのをフォローするのも、全部楽しい。この言葉に、キラの頬に朱が走る。
「あのね!」
 何でそんなことが楽しいのか! とキラは怒鳴るように問いかけてきた。
「お前が相手だから、だろう」
 それが照れ隠しの言動だと言うことをわからない人間は、よっぽど鈍い奴だけではないか。
 本当に可愛いよな、と心の中で呟く。
「俺が好きなのは《キラ・ヤマト》と言う一個人。男だろうと女だろうとどっちでもいいんだよ」
 でなければ、傍にいようとは思わないし……クルーゼのしごきを受けた時点で逃げ出していたかもしれない。そう続けた。
「……そんなに酷かったの?」
「毎日毎日、手加減なしのシミュレーション」
 しかも、最初は一撃でやられていたのだ。だが、それはまだ我慢できた。問題だったのは、その後に続いたイヤミの方だった。
「……ご苦労様」
 何かを思い出したのだろう。キラはそう言ってくれる。
「まぁ、こればっかりは無理強いできない問題だしな。ただ、俺はお前が好きだと知っていてくれれば、とりあえずいいか」
 キラのことだ。そうすれば、そう言った意味で自分を意識してくれるだろう。今は、それだけでいい。
「……僕も、ミゲルは好きだけよ……」
 そう思っていた、彼の耳に、キラの爆弾発言が飛び込んでくる。
「キラ?」
 マジ、と呟く用意問いかければ、彼女は小さく頷いて見せた。



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