それでも、このころはまだ平穏だった。
 多少の小競り合いはあっても、まだまだのんびりとしていたことも否定しない。
「キラ……」
 気が付けば、キラの髪も肩に付くくらい長くなっている。それは可愛い、と思うのは自分だけではないはずだ。
「何?」
 そんなことを考えながら呼びかければ、すぐに言葉が返される。
「この前カスタムした所なんだが」
 ゆるみそうになる表情を引き締めながら、ミゲルは口を開く。
「どうも、思うような反応が出ない」
 それがハードのせいなのか、OSのせいなのか。判断に困っている。そう付け加えた。
「……バランスかな……とりあえず、後で見てみるね」
 今はこちらをなんとかしないと。そう言いながら、キラは目の前の機体を見上げる。
「シグー、ね」
 ジンよりも、あれこれ改良されている機体だ。先日、許可を貰って操縦させて貰ったが、確かに、一般のジンよりは反応がよかった。
 だが、とミゲルは心の中で呟く。それ以上に、キラが手がけてくれたカスタムジンの方が自分には扱いやすい。
「これも、OS次第でもっと扱いやすくなると思うんだよね」
 早急になんとかしないと、とキラは続ける。
「そうだな」
 でなければ、クルーゼが出撃できない。
「……でも、ミゲルの方が優先順位が高いかな?」
 言葉とともに彼女は首をかしげた。その瞬間、さらりと音を立てて髪の毛が流れる。
「どうだろうな」
 それにミゲルは苦笑を返す。
「俺の方は使えないわけじゃないし」
「ダメだよ!」
 ミゲルの言葉に、キラが怒ったように言葉を返してくる。
「どんな些細なことから危険な状況になるかわからないじゃない」
 だから、完璧な状況でない機体での出撃は認められない。そう付け加えた。
「キラ……」
 しかし、とミゲルは言い返そうとする。
「……いざとなったら、隊長に今の機体で出て貰った方が安心だよ」
 あれならば、今のシグーと同じくらい――いや、それ以上に動けるはずだ。キラはそう主張をする。
「……ともかく、隊長の許可をいただいてから、かな」
 どちらを優先するかは、と彼女は付け加えた。
「一番いいのは、出撃しなくてすむことなんだろうけどね」
 しかし、現状ではそれは難しい。いや、不可能だと言っていいのではないか。
「そうだな」
 確かに、これを使わずにすめば、それでいい。しかし、最近、さらに小競り合いが増えている。このままでは近いうちに本格的な戦争が始まるのではないか。そんな不安を、誰もが抱いていた。
「他にもやりたいことがあるし……そろそろ、人員を増やして貰わないと」
 でなければ、隊の仕事以外、全て断って欲しい……とキラは呟く。
「キラ」
「大丈夫。無理はしていないから」
 と言うよりも、させて貰っていない。苦笑と共にそう付け加えた。
「当たり前だろうが」
 それに、ミゲルはため息を返す。
「お前の面倒を見るのは、俺の役目の一つだし……チーフ達にしてみれば、倒れるとこを見たくないって所だろう」
 前に何度か、根を詰めすぎて倒れたことがあるのだ、キラは。その時の騒ぎを思い出しながら、ミゲルは言葉を重ねる。
「……あれは……確かに、自分でもまずかった、と思っているよ」
 おかげで、自宅に帰っても誰かが自分のことをチェックしているから、とキラはため息を吐く。
「おかげで、趣味まで手が回らない」
 さらにそう付け加えた。
「……趣味?」
 何だ、それは……とミゲルは聞き返す。
「内緒」
 くすり、と笑い返す。
「キラ?」
「それよりも、隊長の所へ行かないと」
 そのまま、彼女は走り出した。
「おい!」
 慌ててミゲルはその後を追う。
「どうしたんだよ、本当に」
「だから、内緒」
 そう言うキラにミゲルは直ぐに追いつく。そして背後から抱きしめた。



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