「……女? キラが……」
 しかし、これにはもう絶句するしかない。
「って言うか……何でそれで、俺と同室に……」
 他の連中でも危なかったとは思うが……いや、そちらの方がもっとやばかったのではないか。
「君が一番安全そうだったのでね」
 クルーゼがけろりとした口調でこういった。
「まぁ……キラの年齢と体形であればごまかせる、と思ったことも否定はしないが」
 何げに酷いセリフを口にしているような気がするのは錯覚か。しかし、キラ本人は気にする様子を見せない。
「キラ?」
 何故なのか。そう考えながら声をかける。
「だって、僕はずっとこうだったんだよ?」
 アスランにもばれたことがなかったし……とキラは続けた。
「でも……これからはそうはいかないって言われたから……」
 だから、ミゲルには最初に話しておこうと思ったのだ。そういうと同時にキラは視線を落とす。
「キラはオーブ出身だからね。女性ではちょっとまずいことになりそうだったのだよ」
 そんな彼女をフォローするかのように、クルーゼが口を開く。
「こちらに連れてきたときには、数年で戻れるはずだったのだが……」
 オーブの状況がそれを許してくれそうになかった。そして、と彼はため息を吐く。
「この子をプラントに引き留めたい方々も大勢いたからね」
 女性と知られれば、キラの意に染まぬ形で引き留められたのではないか。その言葉の裏に隠されているものに気付かないミゲルではない。
「……婚姻統制、ですか?」
「そう。困ったことに、私も名前を売りすぎてね」
 自分と縁戚になりたいものは予想以上に多いのだ。
 その上、キラの才能を手に入れられる。そう考えるバカもいた。
「しかし、私の所へ呼び寄せれば、誰も何も言えないだろうしね」
 自分の部下である以上、その才能を使おうと思えば断りを入れてこなければいけない。そうなれば、自分の権限で却下することも可能だ。
「性別に関しても、同様だよ」
 ここにいる限りは自分の権限でどうにでも出来る。だから、そろそろ本来のものに戻そうと思っているだけだ。
「ギルバートがいるから、そのあたりのことは何とでもなる」
 だから、キラは安心していなさい。そう告げる声音は優しい。おそらく、それだけ彼――彼等は彼女を大切にしているのだろう。
「……それで、俺にどうしろと?」
 キラが女の子だったというのは嬉しい。だが、複雑な気持ちもあるのだ。それはきっと、今まで教えてもらえなかったからかもしれない。アカデミー時代、あんなに、傍にいたのに、だ。
 しかし、知っていたら普通に接していられただろうか。
「とりあえず、そうだね……当面はキラのフォロー、かな?」
 まずは、とクルーゼは笑った。
「まずは、ですか?」
 その笑みに、何か嫌なものを感じてしまうのはどうしてだろう。
「そう。そのうち、私やキラと互角に戦えるようになってもらうがね」
 しっかりとしごかせて貰おう、とクルーゼは付け加える。
「最終的には、私に変わって実戦の場で指揮を執れるようになって貰おう」
「はい?」
 それならば、自分ではなくキラでもいいではないか。そう心の中で呟く。
「私は、この子を戦場に出すつもりはないからね」
「隊長!」
 彼の言葉に、キラが非難をするように呼びかける。
「あぁ。それがいいかもな」
 しかし、ミゲルはクルーゼの意見に賛成だ。
「ミゲル?」
 彼の言葉に、キラが視線を向けてくる。
「お前の実力が不安なんじゃなくて、性格的に無理だろうって思うんだよ」
 それに、自分が嫌だ。そう心の中で呟いた。
「僕だって!」
「いいから、いいから。もっとも、お前が、絶対に相手を殺さないでなおかつ相手の動きを止められるって言うなら話は別だろうけどさ」
 それははっきり言って至難の業ではないか。いくらキラでも不可能だろう。
「……隊長だって、無理じゃない、そんなこと」
 頬をふくらませながら彼女はこう言い返してきた。
「だから、君はぎりぎりまで出撃しなくていい、と言うことだよ」
 クルーゼがそう締めくくる。
「それよりも、隊のMSをよりよいものにしてくれ。その分、みなの生存率が上がる」
 何よりも優先すべきことだろう。そう言われては納得しないわけにいかないらしい。
「わかりました」
 それでも、どこか釈然としない思いがあるのだろう。表情が曇っている。
「何よりも、私の命が危ないからね。そんなことをすれば」
 くくっと笑いながらクルーゼはそう言った。
「隊長?」
「と言うことで、ミゲルを部屋に案内してやりなさい」
 話はここまでだ。そう付け加えられて、反射的に敬礼をする。
「と言うことで、キラ。案内してくれ」
 その間に、文句は聞くから……と言えば、キラの頬がさらにふくらんだ。



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