結局、ミゲルは《紅》を取れなかった。それは仕方がない。自分でも、成績にむらがありすぎるとわかっていたのだ。
 だから、辞令を渡されたときに驚いたと言っていい。
「……クルーゼ隊、ですか?」
 何で自分が、とそう思う。
「あの一件で気に入られたらしいな」
 フレッドが笑いながら教えてくれた。
「あの男は気むずかしいからな。たとえ《紅》でも自分が気に入らなければ手元に置かない」
 だから、と言うわけではないが今期の《紅》でクルーゼ隊に配属が決まったのは一人だけだ。そう言われた瞬間、ミゲルの脳裏に浮かんだのはもちろんハイネの姿だ。
「まぁ、頑張れ」
 死ぬなよ、と彼は続ける。
「もちろんです」
 誰が死ぬか。せめて、キラに告白するまで何があろうとも意地で生き抜いてやる。そう心の中で呟く。
「何せ、お前は俺とまともに戦える数少ない人間だからな」
 そう言って、フレッドはミゲルの肩を思い切り叩いた。

 だが、予想に反してハイネはクルーゼ隊に配属されていなかった。
「なら、誰なんだろうな」
 てっきりあいつだと思っていたのに、とミゲルは首をかしげる。
「行けばわかるんだろうが……」
 それでも、できれば相性のいい人間であって欲しい。もっとも、命令であれば誰とでも組めるだろうが。
 第一、それよりも気になっていることがある。
「しっかし、キラの奴はどこに配属されたんだか」
 卒業式から後、キラの姿を見たものが誰もいないのだ。おそらく、開発局の連中がさっさと拉致していったのではないか、と言うのが定説になっている。しかし、とミゲルはため息を吐く。
「まったく……何で、俺、あいつのメルアドを聞いておかなかったんだろうな」
 聞いておけば、連絡を取れただろう。もっとも、正式に隊に配属されれば、調べる方法もあるのではないか。
 でなければ、開発局に足を運べばいいだけだろう。
 そんなことを考えながらミゲルは荷物を抱え直す。そして、目の前の門をくぐった。
「すみません」
 そのまま手近な人間へと声をかける。
「お前は?」
 おそらく、整備員だろう。作業着を着た人間が言葉を返してきた。しかし、警戒するような眼差しが向けられているのは、どうしてなのだろうか。
「今日から、こちらに配属されることになったミゲル・アイマンです。どちらに向かえばいいのか、教えて頂けませんか?」
 こう名乗った瞬間、その警戒が綺麗に消える。
「お前が新人か」
 よろしくな、と彼は笑う。
「お嬢!」
 そのまま振り向くと、彼はこう叫んだ。
「お仲間だぜ!」
 彼のこの言葉に、ジンのハッチの所にいた小柄な人影が立ち上がる。その姿を認めた瞬間、ミゲルは信じられないと目を丸くした。
「キラ?」
 確かにキラも《紅》だ。そして、フレッドは今期の《紅》の中からクルーゼ隊に一人配属されていると言っていたではないか。
 しかし、無意識のうちにミゲルは《キラ》を排除していた。
 理由は簡単。
 キラの才能を一番必要としているのは開発局なのではないか。だから、てっきり、そちらに配属されたと思っていたのだ。
「どうしたの、ミゲル」
 そんなことを考えている間に、キラは側まで来ていたらしい。顔をのぞき込むように問いかけてくる。
「いや……てっきり、開発局に配属されたのだとばかり思っていたから」
 ここで会うとは思わなかった、と正直に告白した。
「あぁ。そう言うこと」
 納得、とキラは頷く。
「最初から、クルーゼ隊に配属されることを条件に、アカデミーに入ったから」
 そんなことが可能なのか。そう言いたくなるようなセリフをさらりと口にしてくれる。
「公私混同だと思うけどね。それ以外認めないって、ラウ兄さんが」
 くすくすと笑いながら、さらに言葉を重ねた。
「詳しいことは、隊長にお聞きすればいいよ」
 案内するね、と言われて、ミゲルは頷く。それを確認してから、キラは歩き出した。
「……そう言えば、お嬢って……」
「主任が僕に付けたあだ名。それについても、隊長の所で説明するから」
 ここまで言われては、無理強いをするわけにはいかない。
「了解。でも、ちゃんと教えてくれよ?」
 とりあえず、キラと一緒にいられるからいいか。そう判断をして、その背中を追いかけた。



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