しかし、候補生相手に本気で戦闘をしかけてくるか? とミゲルは心の中で呟く。救いなのが、実弾ではなくペイント弾を使われていることかもしれないが。
「だからといってなぁ!」
 こっちとしても大人しくやられてなんていられない。
 そう言い返しながらしっかりと打ち返す。
「やりぃ!」
 まさか、当たるとは思わなかった。だが、これで一機、脱落したのは事実だから、結果オーライと言うことでいいか。ミゲルは心の中でそう呟く。
『あまりはしゃぐな、ミゲル』
 即座にダコスタから注意の声が飛んでくる。
「わかってるって」
 その間にも、キラが別の機体を撃墜した。
『……何か、ねらい打ちされてない、僕ら』
 さらに別の機体の攻撃を受け流しながら、キラはこう呟いた。
『と言うよりも、現在、ジンを起動させているのに成功しているは我々だけらしい』
 だから、彼等にしても自分たちはいい獲物なのだろう。ダコスタがため息混じりにそう言ってくる。
「ありがた迷惑だな」
 訓練としてはいいのだろう。しかし、最初から経験の差がある相手に、こんな風に攻撃をされては……とミゲルは眉根を寄せた。
『とりあえず、フォローはするよ』
 と言っても、自分たちに出来るのは、せいぜい目くらまし程度だが。ダコスタが即座に声をかけてくる。
「それで十分。後は、攻撃を受けるなよ!」
 ジンにだけ気を取られていると、どこから伏兵は飛びだしてくるかわからない。そう言いながら、シールドで相手の実剣をはじいた。
「……これ、刃が生きているじゃねぇか!」
 訓練だろう、訓練! と思わず叫んでしまう。
『甘いね』
 次の瞬間、目の前の機体のパイロットから声がかけられる。その声に聞き覚えがあるような気がするのは錯覚ではないだろう。
「クルーゼ隊長?」
 マジ? と本気で呟いてしまった。
『キラがいるのだから、当然、出てくるだろうと思ってはいたが……少し時間がかかりすぎだよ』
 本当に楽しげだ、と思うのは気のせいだろうか。
『まぁ、まだ出てこないどころかたどり着けない者達もいるのだから、その点については妥協しよう』
 だが、と彼は続ける。
『手加減はしないよ』
『クルーゼ隊長!』
 彼のセリフに、キラが焦ったような声で呼びかけてきた。
『実力を確かめるだけだ』
 手加減をしてはそれも出来ないだろう、と言われても答えようがない。いや、ミゲルに答えている余裕がなかったと言うべきか。
 本当に、手加減なしで攻撃をしてくる。
 実際に攻撃を受けてみて、最初のシミュレーションでキラが見せたあの動きがどれだけ凄かったのかを改めて認識させられる。少しはそれに近づけたのではないか、と思っていたのだが、まだまだだと言うことも、だ。
 だからといって、とミゲルは口元を引き締める。
「俺だって、キラを守りたいんだ!」
 せめて一矢報いてやる、と呟きながら、ミゲルはクルーゼのジンへ突進していった。

 もちろん、結果は五分と持たずに惨敗だったが……

 どのチームも目的地までたどり着くことが出来なかった。
 それでも、ミゲル達のチームが最高点だったのは事実だ。次点でハイネのチームが入ったのは、意地かもしれない。他のチームは、OSが入ったディスクを見つけられなかったために起動することすら出来なかったのだ。
「……喜んでいいのか悪いのか、複雑だな」
 クルーゼに太刀打ちできなかった。その事実がミゲルに重くのしかかっている。
「本人は喜んでいたけどね」
 そんな彼の背中にキラがこう言ってきた。
「僕がシミュレーションの度にあの人に呼び出されていたのは、他の人じゃ相手にならないからだよ。だいたい、最初の一撃で終わるから」
 これは慰められているのだろうか。
「だから、自信を持っていいよ」
 後は、経験の差だけだ。そう言ってキラはミゲルの顔をのぞき込んでくる。
「そうだな」
 一足飛びに相手を超えようとしても無駄か。後は努力するしかない。そう思い直した。



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最遊釈厄伝