その後も、あれこれとんでもない――えげつないとも言う――トラップを乗り越えて、目的と思われるMSの元へとたどり着いた。しかし、一番のトラップは別にあったと言っていい。
『ようこそ。君達がトップだよ』
 どこか、笑いを含んだ声がスピーカーから流れ出してくる。
『これから二時間後。プラント内にMSが突入する。その攻撃を避けながらドックまでたどり着くこと。それがゴールだ』
 他の者達もタイムリミットは一緒だ、と声は続ける。
「……マジ?」
 ミゲルは反射的にこう呟く。
「これが、今回の実習のメインってことか」
 厄介だな、と続ける。
「そうだろうな」
 本当にイイ性格をしている教官達だ。ダコスタもため息混じりに呟く。
「なんて言っている暇はないのだろうが」
 ともかくMSのチェックだな、と彼は即座に意識を切り替えたようだ。
「……あちらに、ジープもあったぞ」
 どうやら、既に他の者達も動いていたらしい。こう告げてくる。
「つまり、俺たちだけじゃダメだってことか」
 MSだけであれば話はまだ簡単だ。しかし、ジープを守りつつ目的地まで移動しなければいけない。そう考えればかなり難易度が高いと言わざるを得ない。
「まぁ、キラと俺がいれば、何とかなるだろうが」
 問題はMSの状態だろう。外見からは何の異常も見受けられない。しかし、あの教官達が素直に使えるものを用意しているか……となれば否としか言いようがないだろう。
 そう考えたときだ。
「……このジン……OS、入ってない」
 コクピットであれこれ調べていたキラが、あきれたようにこういった。
「……やってくれる……」
 そう来るか、とダコスタは呟く。
「ともかく、周囲を探してくれ。どこかにあるはずだ」
 いくらなんでも、用意をしていないと言うことはないだろう。彼はそう告げる。
「……いいよ。この場で構築するから。それよりも、他の部分のチェックと、後、ジープ組が使えそうな武器を探して」
 一時間で終わらせるから、とキラは続けた。
「キラ?」
「その方が早いから」
 そう言う問題ではないのではないか。誰もがそう言いかける。しかし、考えてみればキラは開発局から呼び出されるほどの実力の持ち主だ。新型の開発にも関わっている。見つからないかもしれないそれを捜すよりも確実なのではないか。
「わかった。甘えさせてもらう」
 それに、ジンのOSを抜いておくなんてことをしてくれる教官達だ。ジープの方も仕掛けがあるような気がしてならない。
「……ガソリンがないとか、ブレーキが壊されていたなんて状態だったら、ヤバイなんてもんじゃないしな」
 この呟きに、ダコスタ達が慌てて駆け出していく。
「……さて、俺はMSの武器のチェックだな」
 OSはキラに任せておけばいい。だから、と言いながらミゲルもまた行動を開始した。
 それから三十分経っただろうか。
「ミゲル!」
 不意にキラが呼びかけてくる。
「何だ?」
「ごめん。OSを確認して。動きにくいようなら、直すから」
 と言うことは、もう構築は終わっていると言うことか。そう思いながらもミゲルはキラの方へと駆け寄っていく。
「……早いな……」
「何回もいじっているからね」
 だから、覚えていただけだ。そう言ってキラは笑う。
「ついでだから、ミゲルにあわせてカスタムしてみました」
「はい?」
「別に、ダメって言われてないし。その方が、僕もつくるの楽だったし」
 そう言う問題ですか。そう言いたくなる。だが、キラがそう言うのであればそうなのだろう。
「わかった」
 こう言い返しながら、シートに身を沈める。そして、素速く起動した。
 ハッチを開けたまま、軽く動かしてみる。アカデミーで使っている機体よりも動かし安い、とそれだけで感じた。何というか、自分が望むとおりの反応をすぐに返してくれるのだ。
「大丈夫、のようだな」
「そう。よかった」
 なら、大丈夫だね。そう言ってキラは微笑む。
「と言うことで、こっちは大丈夫みたい」
 そのまま、下にいるダコスタ達に声をかけた。
「了解。こちらも、ルートの解析が終了した所だ」
 ならば、さっさと移動を開始するか。その言葉に、その場にいた全員が頷いて見せた。



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