しかし、事前に調べて置いて貰ってよかった。そう思ったのは、訓練が始まってからだ。
「いったい、どうすればこんな風にとんでもない状況が作れるんだ?」
 廃墟としか言いようがない光景に、ミゲルはそう呟く。
「事故があったからだよ」
 そんな彼に向かってあきれたように口にしたのはダコスタだ。
「プラントが建国される前、の話だ」
 粗悪な部品が一つあったせいで、危なくこのプラントにいた人間は全員死ぬところだった。しかし、幸いなことに的確な指示を出してくれる人間がいたから、最小限の被害だけですんだのだ、と彼は続ける。
「問題なのは、その部品が使われているのが一カ所や二カ所ではない、というだそうだ」
 しかも、どれが不良品なのかはわからない。
「と言うことで、ザフトの訓練用に使われることになったらしい」
 おかげで、自分たちは苦労をすることになったのだが……と彼が締めくくる。
「……でも、とりあえず内部の構造はわかったよ」
 にこやかにキラがそう言ったのは、雰囲気を和らげようとしてのことか。
「それはプラス材料だね」
 これで目標を絞りやすくなる。そう言いながら、ダコスタはキラの側に歩み寄っていく。
 そんな彼に見やすいように、と言うことだろう。キラは手にしていたモバイルのモニターを彼へと向けた。
「さて……と。俺たちは周囲の警戒かな?」
 今回は、他のチームは全て敵だ。相手を出し抜くためには何を――と言っても殺すことはダメだが――してもいいことになっている。
「了解」
 他のメンバーが即座に頷く。
「あの二人がいるんだ。作戦の方は確実だろうしな」
 邪魔されなければ、確実にゴールできるだろう。
「それに、キラはちっちゃいしな」
 実力はともかく、と言う声が聞こえる。
「そうそう。俺たちより強いとわかっていてもやっぱ、守りたくなるんだよな」
 ハイネが別チームに振り分けられて少々不安を感じていたが、これならば大丈夫かもしれない。
 ミゲルは心の中でそう呟いていた。

 候補生達の動きは、当然モニターされていた。
 その中に一人、純白の軍服を身に纏ったものがいる。特徴的な仮面で顔を隠した彼を知らないものなど、誰もいない。
 その姿の異様さよりも、彼の有能さの方が重要なのだ。
 本人もそれをわかっているからこそ、こうして平然と公私混同をしているのかもしれない。
「さて……彼は無事にキラを守れるのかね」
 小さな声でクルーゼはこう呟く。
「あの方の許可も出たことだし……せいぜい頑張って貰おう」
 でなければ、また一から人材を捜すことになる。だが、キラがあれだけ懐く相手がそう簡単に見つかるとは思えないのだ。
「あの子が、せめてキラと同じ年なら、ね」
 無条件で側に置いておいたのに。
 だが、これだけはどうしようもない。それに、とクルーゼは心の中で呟く。あの子は適任だが、キラのためにはならないだろうとも。
「もっとも、あれに比べれば他の誰を持ってきてもマシ、なのだろうがね」
 そう呟く彼の脳裏にはある人物の面影がしっかりと描き出されている。
「あれと切り離すためと、無駄な猜疑心を交わすためとはいえ……あの子にはちょっと辛い選択をさせたことは否定できないが」
 それでも、キラを守るためには仕方がない。
 そのための準備はほぼ整っているのだ。
「おやおや。どうやら、目標を見つけたようだね」
 さすがはキラ、と言うべきか。それとも、周囲の者達のフォローが適切だったと言うべきなのだろうか……と口にしながらクルーゼは微笑む。
「本当。あのメンバー、全員引き抜きたいところだが……」
 流石に優秀な人材を独り占めすることは難しいだろう。その理由で、ハイネを切ることになったのだ。
「仕方がない。最低、彼が使えるようならそれで十分だしね」
 だから、しっかりと見聞させて貰おう。そう呟くと、クルーゼは笑みを深めた。



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