周囲からの視線が怖い。
 しかし、キラは気にする様子を見せなかった。そして、周囲もキラだから、せいぜい聞き耳を立てるだけですませているのではないか。
 もっとも、そんな二人の傍にいるミゲル達には遠慮なく忌々しそうな視線を向けて来ているが。
「どうして、あの船に?」
 タイミングよく、と言うべきか。誰もが知りたいと思っている問いかけをキラが口にする。その瞬間、全員の意識がそちらに向けられたのは、見事と言うべきなのか。
「ユニウス市に新しいプラントが完成しましたので、その記念式典に招かれたのですわ」
 そこで歌を歌うはずだった。彼女はそう続ける。
「あぁ。ユニウス・セブンの」
 その話は、誰もが知っていた。同時に、それがどれだけ厄介な存在なのかも、だ。
 禁止されている農業プラント。
 それは自分たちにとってはとても有意義なものだ。しかし、自分たちの存在を苦々しく思っている者達には違う。
 あるいは、これが何かの火種になるかもしれない。
 そう考えているのは自分だけではないはずだ。ミゲルは心の中で呟く。
「なら、間に合うよ。直ぐに代わりの船がくるはずだから」
 でも、直接聞けなくて残念かな……とキラは首をかしげた。
「あら。キラのためでしたら、いつでも歌いましてよ」
 即座にラクスがこう言い返す。
「キラは大切なお友達ですもの。その位、当然ですわ」
 だから、今度、一緒にお茶をしてください。そう彼女は続ける。
「……多分、卒業したら少しは時間が取れるんじゃないかと……」
 寮を出ることになるだろうから、とキラは言い返す。その瞬間、ミゲルの中に言いようのない感情が生まれた。しかし、同じ隊に配属されない限り、離れ離れになることはわかっていたではないか。そう自分に言い聞かせる。
「ところで」
 代わりに、周囲からの期待に応えるべく口を開く。
「何?」
 即座にキラが微笑みを向けてくる。
「二人は、いつからの知り合いなんだ?」
 この言葉に、キラは確認をするようにラクスへと視線を向けた。
「キラは、ここにいる皆様を信用していらっしゃいますの?」
「一応は。ミゲルは寮でも同室だし、色々フォローして貰ってるよ」
 校内では、それにハイネ達も加わるけど……と即座にキラは言い返す。
「なら、構わないですわね」
 自分のことのせいで、キラが厄介な人々に追いかけられては困る。そう彼女は続けた。
「それは大丈夫。俺たちが保証する」
 一緒にいられる間は、責任を持ってキラをフォローするから。ミゲルはそう言った。
「約束を破られましたら、後で怖いですわよ?」
 にっこりと微笑みながら、ラクスがこう言い返してくる。
「破るつもりはないって」
 むしろ、許されるなら卒業してからもずっと傍にいてフォローしたい気持ちだ。そう心の中で呟く。
「キラがプラントに来られて直ぐですから……丁度七年になりますわね」
 もっとも、幼年学校も寮だったから、あまり顔を合わせることは出来なかったが……とラクスは口にする。
「仕方がないよ。父さんも母さんも来られなかったんだし……後見人をしてくれている人も忙しい人だから」
 寮にいるのが一番よかったんだ。キラは苦笑ともにそう言い返している。
「わかっていますわ。そのせいで、あんなお馬鹿に近づく機会を与えたかと思うと、悔しいだけです」
 もっとも、ここにはそのようなお馬鹿な方はいらっしゃらないと思いますけれど。そう付け加えながら、ラクスは周囲を見回す。
 その視線の奥に潜んでいるものに気付いている人間がどれだけいるか。ミゲルは胸の中でこっそりとそうはき出す。
「ラクス。あまり本性を出さない方がいいよ」
 小さなため息とともにキラがラクスの耳元に口を寄せた。そして、こう囁く。
「あら……出ていました?」
「うん。だから、気をつけないと」
 ね、と言い切れるキラは、流石だと言うべきなのか。思い切り感心するしかない。
「……キラって、すげぇ大物かも」
 ぼそっとハイネが呟く。それにミゲルも頷くしかできなかった。



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