キラが操縦する機体がデッキに滑り込めば、他にも同じように候補生を回収してきたらしいMSが確認できる。
『これで全員ですか?』
 焦ったような口調でキラが問いかけている声がモニターから聞こえた。
『……現在確認中だ……』
 即座に教官の声が返ってくる。
「……点呼でも取るか?」
 ぼそっとミゲルは口にした。
「そうだな。ここにいる連中だけでも確認した方がいいだろうな」
 ハイネもそれに頷いてみせる。
「っていうことで。さっさと名前言えよ!」
 他のメンバーにしても今まで同じ訓練を受けてきた人間だ。やるべきことさえわかれば直ぐに行動出来る。
 そもそも、現在、無重力での訓練を受けているのは、主にパイロットコースの人間と整備コースの者達だ。こういう状況下での行動はそれなりにたたき込まれている。
 だから、あっという間にこの場にいる面々の確認は終わった。
「キラ」
 それをしてから、ミゲルはMSの中にいる人物へと呼びかける。
「何?」
 それを合図にしたわけではないだろう。だが、直ぐにハッチが開き、キラが顔を出す。
「とりあえず、ここにいるのはパイロットコースの一・二班と整備のAグループ全員だ。教官に連絡してもらえるか?」
 そんなキラに向かって、ミゲルはそう告げる。
「了解」
 言葉とともにまたコクピットの中に引っ込んだ。その時のキラの口元が微笑んでいたような気がするのは錯覚だろうか。
 しかし、それを確認する術はない。
「しかし、何があったんだろうな」
 まさか、これも訓練だ、とは言わないだろうな……とハイネが問いかけてくる。
「どうだろうな」
 それにしては、人数確認の方法を整えておかなかったのはおかしくないか。ミゲルはそう言い返す。
「言われてみれば、そうか」
 その言葉に、周囲から納得したような声がこぼれ落ちた。
「キラなら、何かを知っているのかもしれないがな」
 そろそろ降りてくるだろうか。それとも、自分が行くべきか。
 しかし、あれは開発中の機体で、自分たちが迂闊に近づいていいものではないような気がする。
 そんな風に悩んでいたときだ。
 ハッチから小柄な影が現れる。そして、そのまま真っ直ぐにミゲル達の場所へと降りてきた。
「キラ?」
「ブリーフィングルームで待機、だって」
 とりあえず、全員無事だったみたい……とキラは続ける。
「何があったんだ?」
 気になっていたのだろう。即座に誰かがこう問いかけてきた。
「民間の船から救難信号が出ているんだよ」
 それに、キラはこう言い返す。
「近くに他の船がいないから、この船が救助に向かうことになる見たい」
 ただの故障やデブリとの衝突ぐらいならいいけど、と付け加えるとキラは顔をしかめた。
「……違う可能性もあるのか?」
 しかも、厄介な……と思いながらミゲルは口を開く。
「略奪船、と言う可能性があるから」
 不本意だが、とキラは続けた。
「中には、それに偽装したブルーコスモスや地球軍もいるって聞いたこともある」
 だから、最悪、戦闘になるかもしれない。そう続ける。
 この一言に、自分たちの実習が中断されたことを不満に思っていたらしい連中も気持ちを改めたらしい。
「それじゃなくても、宇宙空間での救難信号は何よりも優先されるべきだって、クルーゼ隊長がおっしゃっていたし」
 さらにこう言われては、もう反論のしようもない。
「実習の機会は、またすぐに来るよ」
 キラの明るい声だけが慰めだった。



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