宇宙空間での実習は、まずは無重力になれることから始まった。
 どうしてそれが必要なのか、と言うものもいる。それだけではない。中にはパニックを起こすものもいた。
 しかし、ミゲルは宇宙空間にいることが心地よいと感じられた。
「何でだろうな」
 どうして、この感覚を『怖い』と感じるのだろうか。
『……結局、コーディネイターの中にも重力のくびきから逃げられない人間がいるってことだろう』
 ハイネが笑いながらこう言ってきた。
『だからこそ、地球にもまだまだ残っている同胞がいるんだろうし』
 別の理由があるのかもしれないが。そう付け加えられて、ミゲルは「そうだな」と相づちを打つ。
『ところで、キラは?』
 傍にいないようだけど? と彼は問いかけてくる。
 ひょっとしてそれを確認するのが目的だったのだろうか。
「あいつなら、新型のテストに付き合ってるよ」
 この訓練はクリアしているらしい。そう言い返す。
『なるほど』
 確かに、その可能性を考えておくべきだった……とハイネは口にする。
『せっかくなら、この光景を一緒に見たかったんだが……』
 彼がそう付け加えたときだ。いきなり、ノーマルスーツのヘルメットの中でアラームが鳴り響く。
「何だ?」
 何かミスをしたか? とミゲルは慌てる。
『いや、俺の方もなっているな』
 と言うことは、ミゲルのノーマルスーツがヤバイ状態になっているわけではない。
「じゃ、何だ?」
 そう付け加えたときだ。
『訓練生達に接ぐ。大至急、母艦へ帰還せよ』
 通信機からそんな指示が飛んでくる。
「すぐにって……」
 そう言われても、とミゲルは周囲を確認するように体を回転させた。そして、自分たちの位置を確認する。
「ちょっと無理じゃね?」
 この位置からだと、どう考えても十分はかかるのではないだろうか。
『ちょっと遠くに来すぎたか?』
 だが、最初の予定であればそれでよかったはずなのだ。
「否定は出来ないな」
 だからといって、指示を無視するわけにはいかない。だからと腰に付けたバーニアを深そうとしたときだ。
 直ぐ傍に一機のMSが近づいてくる。それはよく見掛けるグリーンではなく、鮮やかなオレンジに塗られている。
『隊長機か?』
 ハイネがそう呟く声が聞こえた。
 ザフトでパーソナルカラーを認められている者は、現在はまだ、その程度しかいないのだ。
「だが、ジンではないぞ」
 微妙に違う、とミゲルは言い返す。
 しかも、よくよく見れば、そのMSは腰のあたりからワイヤーを流していた。そして、それに候補生と思われる者達が掴まっている。
『そこにいるのは、ミゲルとハイネだよね?』
 MSからだろうか。通信機からキラの声が響いてきた。
「キラ?」
『よかった。掴まって』
 このまま引っ張っていくから、とキラは付け加える。
「あ……あぁ」
 確かにその方が早い。しかし、とミゲルは目の前のMSを確認する。
「新型か、これが」
『だろうな』
 ともかく、指示に従うのが良さそうだ。そう判断をしたのだろう。ハイネはさっさとワイヤーへと向かって移動をする。
「待てよ!」
 一人だけ先に行くんじゃねぇ! と付け加えながら、ミゲルもまたその後を追った。



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