「あぁ、なるほど」 確かにそうかもしれない。ミゲルの話を聞いてハイネは頷いてみせる。 「それはそうだね」 こう言ってきたのは、戦略コースへ進んだダコスタだ。 「ケアレスミスが増えてきているよ、うちも」 もっとも、自分たちはまだシミュレーション中心だ。その後で、教官に殴られればすむだけこのとだが……と彼は苦笑を浮かべた。 「最前線に出る君達ではそういうわけにはいかないだろう?」 だからこそ、パイロットコースの人間のカリキュラムは実地研修が多くなっているのではないか。そう彼は続ける。 「だろうな」 ミゲルは同意の言葉を口にした。 「しかし、さ。だからといって、キラが全部背負わなくてもいいと思うんだよ」 あいつも、自分たちと同じ立場なんだし……主張をする。 「確かに。あいつが凄いのって、MSの操縦と情報処理、ナイフ戦ぐらいだもんな」 そう言ってきたのは、前二つをのぞけばキラよりも上位につけているハイネだ。 もちろん、キラだってそれ以外――ただ一つ、壊滅的な成績の爆弾処理をのぞけば――もそこそこにいい成績だ。だから、おそらくキラとハイネは《紅》を着ることができるだろう。 まずいのは自分かもしれない。 ナイフ戦とMSの操縦以外はベスト10に入れるかは入れないかと言ったぎりぎりのラインを行ったり来たりなのだ。 もし、一つでも失敗すれば《紅》は無理だろう。 しかし、それは今は関係ない。キラが凄いのはそれだけ努力してきたからだ。逆に言えば、自分の努力はまだまだと言うことだろう。 それに、軍服の色なんてどうでもいいことだ……と考えている。大切なのはその後のことだろう。 しかし、それを口にすれば『負け惜しみ』と言われかねない、と言うこともわかっていた。だから、キラ以外の人間に告げたことはない。キラに話したのは、そんな自分の考えを笑わないとわかっていたからだ。 「……毎朝、俺が起こさないと起きれないしな……」 それは、またキラがあれこれ忙しくなってきてるからだろう。でも、とミゲルはため息を吐く。 「この前なんて、朝食のスープで顔を洗うところだったしな」 自分が傍にいたから、なんとかその寸前で抱き留められたが……と続ける。 「確かに……それは大損失だ」 キラの顔にヤケドの痕なんか残ったら、とハイネも真顔で口にした。 「考えたら、あいつ、まだ十三なんだっけ?」 十四になったんだっけ? と彼はさらに言葉を重ねる。 「あいつの誕生日は五月だから……なったんじゃないか?」 ミゲルは首をかしげながら言い返す。 「どちらにしても、まだまだ、責任を負うべき年齢じゃないよな?」 MSの操縦技術に関してはしかがないのかもしれない。教官達も、キラに教えを請うている状態なのだ。 しかし、メンタルケアまでは違うだろう。 「ともかく、それなりに話をしておくしかないだろうが」 聞く耳を持ってくれる人間がどれだけいるかはわからないが、とため息とともにハイネが言う。 「だけど、基本動作だけで相手をたたきのめすのは楽しそうだな」 そう言うハンデをつけられるのはいやではない。そうだろう、と彼はそのままミゲルへと視線を向けてきた。 「あぁ。もっとも、俺たちが出来るかどうかはわからないけどな」 ただ、と脳裏に浮かび上がってきた考えをミゲルはそのまま口にし始める。 「キラがレクチャーしてくれるなら、可能かもしれない」 シミュレーションの時に教えてもらえれば、少しはキラの負担が減るのではないか。そうも続けた。 「あぁ。そうかもしれないな」 それならば、下の連中は何とかなるかもしれない。ハイネも頷く。 「後は、それ以外の点でこちらがフォローすればいいだけだね」 ダコスタがこう言う。 「それは難しくないが……キラに許可を貰わないと」 その言葉に、ミゲルは彼をにらみつけた。 「あいつに何をさせるつもりだ?」 「と言うよりも、キラの写真を欲しがっている面々が多い、と言うことだよ」 この言葉に、ミゲルの眉根がよる。 「何の意図で欲しがっているんだ?」 よからぬ意図ではないだろうな、とそう問いかけた。 「それは心配いらない、と思いたいけどね」 まぁ、そのあたりの采配は任せてもらうしかないのだが、とダコスタは口にする。それをどこまで信用していいものかわからない。 しかし、とミゲルは心の中で呟く。確かに、味方は一人でも多い方がいいのは事実だ。 「……難しいよな、色々と」 ハイネのこのセリフが妙に重く感じられた。 |