ようやく、MSから降りても体の痛みを感じなくなった。
「……だいぶ、力が抜けてきたね」
 慣れてきたからかな? とキラが首をかしげながら口にする。
「おそらくな」
 ハイネも同じ様子だし、とミゲルは笑いながら言い返す。
「……なら、逆に気を引き締めないとね」
 それにキラは呟くようにこういった。
「キラ?」
 どういうことか、と思わず視線を向ける。
「慣れてきたから……気がゆるむでしょ?」
 その時が一番危ないのだ。キラはそう付け加える。
「大きな事故が起きるんだよね。あれが出来たからこれも出来るんじゃないかって、とんでもない行動に出て」
 それが怖いのだ。そう言われて、ミゲルは内心慌てる。自分の気持ちを見透かされたような気がしたのだ。
「そうなんだ」
 危なく、キラにあきれられるところだった……と心の中で呟きながら相づちを打つ。
「うん。それで大けがをしてパイロットを引退した人もいるし」
 卒業前にそれはいやだろうから、とキラは続けた。
「確かにな」
 自分がそんなことになったら耐えられるだろうか。
 母や弟に負担をかけないようにここに入学したのに、そのせいで逆に負担をかけることになるかもしれない。
 そう考えた瞬間、ぶるりと体が震えた。
 それに、そうなった場合、キラと離れ離れになることになる。もちろん、配属先次第では離れることになるだろうが、それでもザフトの一員ならまだ繋がりを持っていられるはずだ。
 だが、ザフトを辞めてしまったら、完全に絆がきれてしまうのではないか。
 それはいやだな、と思う。
 そんなことを考えているミゲルの隣でキラは本気で首をひねっている。
「……教官にちょっと相談してみようかな」
 基本動作だけでみんなを倒したら、少しは頭が冷えるだろうか。そのセリフは自慢でも何でもないだろう。だが、可能なのだろうか。
「出来るのか?」
「クルーゼ隊長クラスだと辛いけど、多分、大丈夫」
 早めに締めておかないと、次の実習がまずいから。キラはそうも付け加えた。
「……次というと……宇宙空間での実習か」
 確かに、ちょっとしたミスでも命取りだよな……とミゲルも頷く。
「うん。まだここならいいけど……あそこだと、本当に命に関わるし」
 訓練場であれば、ケガの度合いに差はあれ、命まで失うことはないだろう。
「……そうか」
 キラの言葉の裏に見え隠れしている感情から推測して、誰か知人が命を落としたのかもしれない。そう推測をする。
「そう言うことだから、ちょっと教官の所に行ってくるね」
 言葉とともにキラは立ち上がった。
「マッサージの必要はなさそうだし」
 そう付け加えられて、ミゲルは苦笑を浮かべる。
「わかった。俺はハイネ達と話をしておくから」
 あいつらなら、自分の言葉に耳を貸してくれるだろう。同時に、他の連中にも話をしてくれるのではないか。そう告げる。
「そうだね……ハイネ達なら、大丈夫かな?」
 キラは少し考え込むような表情と共にこう言い返してきた。
「だろう? まぁ、そのあたりのことは任せておけ」
 自分たちが第一期生になるのだ。誰だって、不名誉な歴史を残したくないだろう。
「じゃ、お願い」
 キラは微笑みながら言葉を口にする。
「ミゲルって、本当に頼りになるよね」
 だから、甘えさせてね……と付け加えられて、嬉しくなったのはどうしてなのか。その答えをミゲルは既に知っていた。



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