その日から、ミゲルのキラに対する言動に、微妙に変化が出てしまったことは事実だ。
「どうかしたのか?」
 他の者達はともかく、親しくしているものには気付かれてしまうのか。ハイネがこう問いかけてくる。
「まぁ……ちょっと、な」
 それに、ミゲルは苦笑を返す。
 流石に本当のことを言うわけにはいかない。だから、曖昧な言葉でごまかそうと思ったのだ。
「それはいいが……キラが気にしているぞ?」
 お前の態度の変化を、彼は付け加える。
「……やっぱり、か」
 わかって入るんだけどな、とミゲルは苦笑を浮かべた。
「ただ、この前、思い切り恥ずかしい姿を見られたばかりでさ」
 それが引っかかっているのだ。そう付け加える。
「まぁ、そろそろ吹っ切れると思うんだが」
 いくら経験の差があるとはいえ、年下の人間に毎日マッサージをされるのは……とため息とともに付け加えた。
「……確かに、それは恥ずかしいな」
 その光景を思い浮かべたのだろう。ハイネが少し肩を振るわせながら頷いてみせる。
「しかも、あいつは本当にオコサマなんだよ」
 平気で際どいところを触ってくれるからさ、と言葉を重ねた。
「それは……切実だな」
 キラは可愛いし、と答えるものの、ハイネの肩はまだ震えている。
「だろう? しかも、だ。誰もあいつにそう言うことを教えてないらしいんだよ」
 その手の話を一度も聞いたことがない。どころか、興味すらないようだ。こう付け加えた瞬間、ハイネの笑いの発作が収まったようだ。
「マジ?」
「本当だって。その手の話をしていると、いつの間にか部屋に逃げ帰っているし……」
 処理もしていないようだし、と付け加える。
「それは……ご苦労様だな」
 真顔で彼はこう言ってきた。
「しかし、どんな環境にいたんだよ」
 いくら箱入りだったとはいえ、あまりに知識がなさ過ぎるぞ。そう言ってミゲルはまたため息を吐いた。
「しかも、あいつ、一応、幼年学校でも寮に入っていたらしいぞ」
 普通、そこで覚えるよなぁ……と思わず問いかけてしまう。
「……教えるのがためらわれた、って所じゃね?」
 キラには、何か似合わないような気がする……と言うハイネに、思わず納得してしまった。
「と言うことで、頑張れ」
 ルームメイトの義務だ、と付け加えられたのは何なのか。
「何で俺だよ」
 自分だって、そんなことはしたくない……とミゲルは即座に言い返す。
「だからといって、俺を含めた他の連中だと、絶対、しゃれですまない状況になるぞ」
 絶対に、とハイネは力をこめて口にした。
「お前ながら、まだ、免疫があるだろう?」
 それがつきかけているからヤバイのだ。そう言えればいいのだろう。しかし、下手にそんなことを口にしたならキラとの同室を解消されるかもしれない。それはいやなのだ。
 しかし、このままでは別の意味でまずい……と言うことも否定できない。
「八方ふさがりだよな、まじで」
 それに比べれば、まだ、課題の方が簡単なような気がする。そんなことまで口にしてしまう。
「まぁ、それはそれだよ」
 ともかく、模擬戦闘の方に意識を戻さないとまずいのではないか。そう言いながら、ハイネが視線を移動さえた。つられるようにミゲルもまたキラの操縦するMSへと視線を戻す。
「しかし、重力があるところでこれだろう? 宇宙空間だと、どんな動きになるんだろうな」
 現在ある制約がかなり取り払われることになる。その時に、キラはどのような動きをするのだろうか。それをこの目で見てみたい。
 同時に、自分はどのような動きが出来るだろうか。
 こう考えている間は、あれこれヤバイ妄想をしなくてすむ。そのことに気付いてしまったミゲルだった。



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