しかし、何でこんなに体のあちらのこちらが痛いのか。
「湿布、はる?」
 ベッドの上でうなっているミゲルの耳に、キラの不安そうな声が届いた。
「いや、いい」
 多分、一晩大人しくしていれば、明日には動けるようになっているだろう。そう言い返す。
「……でも、お前は平気なんだよな?」
 教官との模擬戦闘までこなしたのに、とミゲルはなんとかキラの方へ顔を向けながら口にした。
「僕は慣れているから」
 模擬戦闘も、とキラは苦笑と共に言い返す。
「でも、最初はやっぱり、動けなくなったよ」
 無駄な力が入っているからだ。そうも付け加える。
「あまり力んじゃダメなんだって」
 そう言いながらゆっくりと近づいてきた。
「……マッサージした方がいいかも」
 言葉とともに小さな手がそっとミゲルの太ももに触れてくる。その瞬間、自分の体を感電したときと同じような感覚が走ったのを感じた。
「キラ?」
 それが何に起因しているものなのか。それなりに経験があるミゲルにはわかってしまう。
 だが、キラにわかるはずがない。
「何?」
 そう言いながら撫でるように手を動かしている。おそらく、筋肉のはりを確認しているのだろう。それは必要な動作だとわかっている。
 しかし、そのせいで余計な熱が煽られてしまうのは何故か。
 キラは気に入っているし、可愛いと思っていると言うことも事実だ。
 だが、そう言う対象とは見ていない。そう思っていたのに、と心の中で呟く。それでは、ミイラ取りがミイラになったようなものではないか、とすら考えてしまう。
 こんなことを考えていれば、少しは集まった熱を散らせるのではないか。
 そう考えたのに、実際は逆だった。
 直ぐ傍でキラが呼吸する音が聞こえる。
 このままではまずい。
「うわっ!」
 そんな状況から彼を救ってくれたのも、やはりキラだった。
「やっぱり、ここだね」
 凄くこっているよ、といいながらキラは指先で太ももをぐいぐいと押してくる。手が小さいせいか、思い切りツボをついてくれるのは、いいのか悪いのか。
「き、キラ……痛い……」
 ばんばんとマットを叩きながらミゲルは訴える。
「でも、ちゃんともんでおかないと、明日が辛いよ?」
 明日も実技の講義がつまっているのに、とキラは言い返してきた。
「それに、これも慣れているから」
 大丈夫、と言われてもあまり嬉しくない。しかし、キラは気にすることなく手の位置を変えていく。
 状況だけ考えれば、とてもまずいことになりそうだ。だが、この痛みのおかげでとりあえず普通に相手を出来るのはいいことなのか。
 ともかく、この状況からさっさと抜け出したい。
「もう、いい、いいから」
 だから、さっさと……とミゲルは口にした。
「だぁめ」
 実は楽しんでいないか? といいたくなるような声音で、キラは言い返してくる。
「キラァ!」
「だって、明日はフレッド教官との対戦でしょう?」
 その時、動けないとまずいじゃない。そう言われれば、反論が出来ないかもしれない。
「いたぁっ!」
 しかし、痛みがなくなるわけではない。次の瞬間、室内にミゲルの悲鳴が響いた。



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