休暇の後は、シミュレーターでの学習から実機を使ってのそれになる。
「……でかいな……」
 思っていたより、とミゲルは思わず呟いてしまった。
「本当はもっと大きくしたかったみたいだよ」
 苦笑と共にキラが囁いてくる。
「でも、これ以上大きくすると、プラント内での行動が不可能になるから」
 元々の目的を考えれば、それも仕方がないだろうし……とさらに付け加えた。
「元々の目的?」
「建築作業用、だったらしいよ」
 最初のコンセプトは……とキラは言う。しかし、その汎用性の高さから軍用に転化され、研究が続けられたのだ、とも。
「まぁ、どちらにしろ、これ以上の大きさは必要ないよね」
 重力がある場所での整備その他を考えれば、と苦笑を浮かべる。
「確かに。大きいと感覚を掴むのが大変だ」
 あれですら、自分の思い通りに動かせているのかと言えば疑問だ。そうミゲルは言い返す。
「それもなれだけどね」
 自分はみんなの倍以上、MSを動かしている。シミュレーションにいたっては、数える気にもならない。そう言ってキラは顔をしかめた。
「開発だと、どうしてもシミュレーション中心になるしね」
 OSの開発中は、と言われて納得をする。その後でテスト用の機体に入れてバグを確認するのではないだろうか。
 キラの操縦技術はそれで磨かれたのだろう。
 それについて、あれこれ言っている者達もいる。しかし、それを無視できるのは、やはり実力があるからだろう。
 何よりも、とミゲルは心の中で呟く。
 教官達や開発の者達だけではなく、ザフト全体が《キラ》の才能を手元に置いておきたいと思っているのではないか。
 それに気が付いている者の中には、将来、自分に有利になるようにキラと親しくなりたいと思っているものもいる。しかし、そんな人間を下手に近づけるわけにはいかないだろう。
 もっとも、連中はまだ可愛い方だ。
 一番厄介なのは、キラをヤバイ意味で欲しがっている連中だろう。それと前者の条件が合わさるともう最低としか言えない。
 ひょっとして、そう言う連中からキラを守ることも、自分に期待されている役目なのだろうか。そう感じていることも事実だ。
 もっとも、とミゲルはこっそりと苦笑を浮かべる。
 その役目が嫌なわけではない。
 むしろ、自分以外の誰かにこの役目を渡したくないとすら考えてしまう。
 だが、それはどうしてなのだろうか。
 ただ同室だから、というわけではない。それはわかっている。
 しかし、その『何か』がわからないのだ。
「ミゲル?」
 そんなことを考えていたせいか。教官からの呼び出しを聞き逃してしまったらしい。キラのフォローがなければヤバイ状況に置かれてしまうところだった。
「あぁ。助かった」
 キラに苦笑を向けると、ミゲルは立ち上がる。
「頑張ってね」
 そんな彼に向かってキラが微笑みを見せてくれた。
「おうよ。でも、ずっころんでも笑わないでくれよ?」
 一応、シミュレーションではそれなりに操縦できている者達も、実機では何故かとんでもない動作をさせてしまうのだ。それはきっと、機体の重さを初めて実感したからだろうな……とミゲルは思っている。
「大丈夫。焦らないで一つ一つの動作を確実に行えばいいだけだよ」
 最初から格好良く決めようと思ってはいけない。そうキラは告げる。
「手順さえ身に付けば、いくらでも速い動きは出来るようになるから」
 それはキラの経験から出た言葉なのだろうか。
「了解」
 だが、すんなりとその言葉はミゲルの中に収まった。
「……いいな、ミゲル」
 お前だけキラからレクチャー受けているんじゃねぇよ、とハイネが文句を言ってくる。
「俺が実習をしている間に聞いておけばいいだろう」
 もっとも、それを実戦できるかどうかは別問題だが。そう言い返す。
「だよなぁ」
 そう言って笑うハイネの声を聞きながら、ミゲルは練習用の機体へと歩み寄っていった。



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最遊釈厄伝