「……困ったな……」
 デュランダルの屋敷にいるのはいやではない。だが、とキラはため息を吐く。
「やっぱり、一度、開発局にいかないと」
 でないと、あれこれ滞ってしまう。そう付け加えた、その時だ。
「今回はそれは許可できないよ」
 背後からそんなセリフが投げかけられる。
「ギルさん……」
 彼の気配も感じ取られなかったなんて、と思いながらキラは振り向いた。
「どうして、ですか?」
「ちょっと、検診をさせて欲しくてね」
 そろそろ、あれこれ支障が出てくる年齢だろうし……と彼は続ける。
「検診、ですか?」
「そう。だから、開発局へは行っている暇がないと思うよ」
 確かに、検診となればそうかもしれない。だが、とキラは首をかしげた。
「それは、今でなければダメなのですか?」
 そろそろ、こちらも佳境なのだが……と言外に付け加える。そして、これを完成させることはクルーゼのためにもなるのだが、とも。
「ダメだよ。それに、これはラウの依頼だからね」
 確かに、ザフトの新型は完成させなければいけない。今の状況ではいつ何が起きてもおかしくはないのだから。
 しかし、とデュランダルは続ける。
「それで君が倒れては意味がないのだよ?」
 キラも、ミゲル達と共にアカデミーを卒業したいだろう? と彼は微笑みながら問いかけてきた。
「……それは、そうですけど……」
「ならば、検診だけはきっちりと受けてくれないとね。それに……君もそろそろ大人の体になる時期だしね」
 だから、余計に……とギルバートは口にする。
 その瞬間、キラは複雑な表情を浮かべた。
「……ギルさん……」
 そう言えば、自分は……と思いながらキラは彼を見つめる。
「何も心配はいらないよ」
 キラには自分やラウが付いているだろう、とデュランダルは微笑む。それにラクスも、だ。
「……わかっていますけど……」
 でも、とキラは言葉を重ねようとした。
「それに、君の友人達は、その程度のことで怒るような人々なのかな?」
 その程度のこと、と言っていいのだろうか。そんな疑問はある。しかし、彼であれば事情を説明しさえすれば笑って許してくれるような気もするのだ。
「……ミゲルは、大丈夫だと思います」
 でも、別の意味で怒られるかもしれない。そうかんがえると、ため息がこぼれ落ちた。
「大丈夫だよ。そのあたりのことは任せておきなさい」
 いくらでも言いくるめて上げよう。そう告げるデュランダルに、今までとは違った意味で不安を覚えるのはどうしてだろうか。
「とりあえず、お茶にしよう。そろそろ、レイも帰ってくる時間だよ」
 あの子は、キラの側にいたがっているからね。そう言って、デュランダルはキラの肩にそっと手を置いた。
 キラの内心に気付いているだろうに、そうできる彼は、やはり大人なのだろうか。
「それに、ラクスさまがおいでになったときのことも相談しておかないと」
「別に、ラクスなら普通におもてなしをすればいいと思いますけど?」
 彼女は確かにプラントで一二を争うほどの有名人だ。でも、中身はごく普通の少女なのに、と思う。
「そう言えるのは君だけだよ」
 苦笑と共にデュランダルはそう言い返してくる。
「そうでしょうか」
「そうだよ」
 後は、シーゲルかもしれない。微笑みに少しだけ苦いものを加える。
「ラクスは、ラクスなのに」
 何でだろう、とキラは首をかしげた。



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最遊釈厄伝