もちろん、他のカリキュラムもなくなったわけではない。むしろ、さらに高度な内容へと進んだといった方が正しいのか。
 流石のキラも、開発局へ足を運ぶことが少なくなっている。
「……それも、あいつのせいか?」
 ラウ・ル・クルーゼ。
 彼があの時、それをにおわせるようなセリフを口にしていた。その事実は公私混同といわないのだろうか。そう考えるが、今の状況を考えればありがたいのではないか。
「なぁ、キラ」
 心の中でそう呟きながら、ミゲルはデスクで何かを調べていた小さな背中に呼びかける。
「何?」
 作業の手を止めてキラは振り向く。
「何って言うか……ちょっと聞きたいことがあるんだが……今、いいか?」
 クルーゼとの関係を確認したい。しかし、それを聞いてはいけない、と心の中で囁くものもある。そして、それに従った。
「……内容次第、かな?」
 小首をかしげながら、キラはこう言い返してくる。
「今日の講義の内容なんだがな……どう考えても納得できなくて」
 MSの操縦のことで、と彼はとっさに口にした。
「それなら、優先事項かな」
 教えて、とキラは微笑む。その表情にミゲルはほっと胸をなで下ろした。どうやら、自分が一番聞きたかったことには気付かないでくれたらしい。
「教官の説明だとこうだっただろう?」
 そう言いながら、ミゲルはノートを開く。そこに書かれてある文字はお世辞にも上手だとは言えないだろう。
「だけど、俺としてはこことここを入れ替えて、ついでにこうした方がいいと思うんだ」
 図を書きながらの説明に、キラは小さく頷いてみせる。
「そうだね。その方がいいんだけど……状況によってはバグが出かねないんだよね」
 だから、即座にそれを修正できる人間はそうしているが、アカデミーでは教えられないのだ。ほほえみと共にそう言い返してくる。
「でも、普通は気付かないんだけどね」
 自力では、とキラは付け加えた。
「僕の場合、システムの構築とシミュレーションを受け持っていたから気が付いたけど」
 バグだしのために、あれこれ無茶をしたから……とも口にする。
「それ、聞いてみたいな」
 凄く楽しそうだ、とミゲルは素直に告げた。
「そうだね。今度の休暇の時でいい?」
 それとも、ミゲルは家に帰るのか。キラはこう問いかけてくる。
「あぁ……ちょっと帰らないとまずいか」
 今度ばかりは、と彼はため息をつく。流石に、弟の誕生日が近いのだ。当日いられない分、せめて休暇の時ぐらいは……と思う。
「じゃぁ、休憩時間に、かな?」
 一度に全部じゃなくてもいいだろうし、とキラは笑った。
「でも、他の人に聞かれない方がいいかも」
 下手にマネをされると、後で厄介なことになるかもしれない。その言葉に、ミゲルも頷き返す。
「そうだよな。まぁ、ハイネあたりなら聞かれてもかまわないと思うが……」
 他の連中だとバグを出しまくって、そのまま撃ち落とされて終わり……となりかねない。
「そうだね。ハイネなら教えても大丈夫かな?」
 彼の実力なら大丈夫だ。そう言って、キラは頷く。
「他のみんなも、決して悪いわけじゃないんだけど……」
 教官も含めて、ある意味、杓子定規にしか対応できないように見えるから……とさらに言葉を重ねる。
「キラ……」
「まぁ、あれ自体、新しい兵器だからね。これからなんだろうけど」
 しかし、それではいけない。
「……だからといって、戦闘を引き起こすわけにはいかないしね」
 シミュレーションで少しでも慣れていくしかないだろう。だが、シミュレーションはあくまでもシミュレーションなのだ。
「そうだよな」
 戦争はいやだな、とミゲルも頷く。
「あれも、守るだけのために使えればいいのに」
 キラが小さな声でそう呟いた。



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