クルーゼとキラの対戦は、時間切れ引き分けで終わった。 しかし、キラはキラだった。 「キラ?」 いつまで経ってもシミュレーターの中から出てこない。その事実に、ミゲル達が次第にざわめきだしたときだ。クルーゼが中から姿を現す。 「キラのルームメイトは誰かな?」 そのまま彼はこう口にした。 「自分です」 反射的にミゲルは立ち上がる。 「なるほど。君が『ミゲル・アイマン』くんか」 次の瞬間、クルーゼが意味ありげな口調でこう呟いた。 「……何か?」 「いや。それよりも手伝ってくれないかね? おそらく、中で気を失っていると思うのだが……」 少し休ませておけば気が付くと思う。だが、そうでなかったときには、君に寮まで連れて行ってもらわなければいけないだろう。クルーゼはどこか楽しげな声音でそう言った。 「わかりました」 何故、彼がそんな態度を見せるのかはわからない。 しかし、と思いながら足早にシミュレーターの方へ歩み寄っていく。 「キラの面倒を見るのは、俺の役目、だもんな」 だから、今は余計なことを考えないようにしよう。 彼の視線の先でシミュレーターのドアが開く。クルーゼが即座に中に体を滑り込ませる。そのまま、慎重な手つきで、力を失ったキラの体を引っ張り出した。 そのまま優しい手つきで、キラの額に触れる。 さらに指先を首筋に移動させた。脈を診ているのだろうとわかるのだが、そんな彼の仕草が何故か気に入らない。 それはどうしてなのか。 「大丈夫のようだね」 やはり、気を失っているだけだ。クルーゼはほっとした口調でそう告げる。そして、キラを抱き抱えたまま、振り向いた。 「では、アイマン君。この子をお願いしよう」 「はい」 それに頷くと、キラの体を彼の腕から受け取った。 「開発が佳境に入っているのはわかるが……後々のことを考えれば、この子にはもっと体力をつけさせないとね」 まぁ、それに関しては注意をしておこう。彼はミゲルにだけ聞こえる声でそう言った。 「MS戦は一瞬の判断ミスで勝敗を分けかけない。技量に関しては、適性のあるものであれば訓練次第で伸ばすことが出来る」 彼は体を起こしながら言葉を口にし始める。 「キラですら、これだけの動きをすることが出来る。君達も訓練次第では同レベルになる可能性があるということだ」 もっとも、とクルーゼは笑う。 「キラの場合、開発のために私がそれなりにたたき込んだ、ということもあるがね」 さて、君達はどうだろうか。どこかからかうような声音でそう告げる。 「君達がこの課程を終える頃、もう一度御邪魔させて頂こう」 何人が、今のキラレベルまで上がっているか。非常に楽しみだ。そう付け加えながら、彼は一瞬だけミゲルへと視線を向けてきた。 本当に、いったい何を言いたいのか。 まるで、自分を挑発しているようだ。そう感じたのも錯覚だろうか。そんなことを考えながら、キラの体を抱え直す。 「……あれ?」 その刺激で意識が浮かび上がってきたのか。キラが小さな声を漏らす。 「僕、またやった?」 さらにこう呟いている。 「まぁ、それについては後からゆっくり考えろって」 とりあえず、席に戻るぞ……といいながらミゲルは立ち上がった。その瞬間、すがるようにキラの手がミゲルの首に絡む。 それだけで、少しだけ満足感を覚えたのは否定できない事実だった。 その後、全員が適性検査を受けることになった。その結果、仲間達は大きく四つのコースにわけられることになる。 そして、さらに細かく選別された。 その中でも、一番人数が少なかったのは、MSのパイロットのコースだ。 だが、ミゲルとハイネ、そしてキラはその中に滑り込んでいた。 「妥当な所じゃないの?」 その事実に、キラは笑いながらこう告げる。 「だといいけどな」 まぁ、キラがそう言ってくれるのは嬉しい。 とりあえず、クルーゼと互角とは言わなくても、それなりに戦えるようになってやる。ミゲルは心の中でそう呟いていた。 |