しかし、ミゲル達がキラのすごさを認識させられたのはしばらく経ってからだった。
 ザフトの新兵器。
 無重力下用機動戦闘機、と呼ばれるそれの訓練をアカデミーで学ぶのはミゲル達が初めてだという。そもそも、それらを配備されている隊もまだ一握りでしかないのだ。
「ということは、さ」
 当然のようにミゲルとキラの側に陣取ったハイネが、楽しげに口を開く。
「あの、クルーゼ隊長が臨時講師って可能性もあるってことだろう?」
 月面での地球軍との衝突。その際に、まだテスト中だったMS――この時点で、まだ正式名称は付けられていなかった――ジンに乗り、敵の戦艦を三隻も撃墜した彼は、ザフトの英雄といえる存在だ。
「……それはないと思うぞ」
 だからこそ、自分たちのようなヒヨッコ相手に割く時間はないのではないか。そう思ってミゲルはこう言い返す。
「そんなことはないよな、キラ」
 それが気に入らなかったのだろう。ハイネはキラを巻き込もうとしている。
「……そうですね。開発の方にもテストパイロットはいますが……あの人達ほど『人に教える』ということが苦手な存在はいませんし」
 それよりは、実戦に出ている人たちの方がまだ説明が上手なのではないか。そう言い返す声が耳に届いた。
「……そんなに酷いのか?」
 キラが言う以上嘘ではないのだろうが、と言外に滲ませながらミゲルは聞き返す。
「酷いって言うのか……最後の方になると言語が崩壊するというか……」
 一般用語ではなくプログラミング用語で話を始めるのだ。だから、他の人が聞いても意味がわからないだろう。
「それに……あの人達は相手が自分と同じレベルの知識を持っていると信じているから」
 平気で専門用語を口にしてくれる。
 しかし、ザフトのアカデミーでも専門課程に入らなければそれらは教えられない。きっと、理解できるのは一部だけだろう。そうも付け加える。
「……お前が時々呟いているようなことか」
 くすくすと笑いながらミゲルが指摘をした。
「否定はしないけど……そんなに頻繁だった?」
「まぁ、な」
 仕方がないんだろうが、とキラに微笑み返す。
「……ごめん」
 だから、どうしてそこで謝るのだろうか、キラは。そう思わずにいられない。
「いいって。お前だって仕事なんだし」
 それよりも、とミゲルはずれた話題を戻す。
「MSか。あれのパイロットになれたらいいよな」
 やっぱり、と彼は笑った。
「確かに。整備やブリッジクルーでもいいけど……やっぱ、パイロットがいいよな」
 目立てるし、というハイネの言葉は何なのだろうか。
「大丈夫だと思うけど、二人なら」
 キラが笑いながらこう言い返してくる。その根拠は何なのか。ミゲルがそう聞き返そうとしたときだ。
 入り口の方からざわめきが響いてくる。
「何だ?」
 反射的に視線を向けた。そう知れば、教官の後に続いて、対照色にある人間が身につける白い軍服が目に飛び込んでくる。
「……仮面?」
 だが、それ以上に注目してしまうのは、彼の顔の半分を覆っているそれだ。
「ケガをして、その傷跡が醜いから、だって」
 ぼそっとキラがそう口にする。
「知っているのか?」
 そのセリフに、ハイネが即座に問いかけた。
「一応、知り合い……になるのかな?」
 開発の関係で、とキラは言い返す。
「今、新型を開発しているから、そのOSの関係で……」
 話をしたことがある。そうも続けた。
「そうか……」
 ミゲルが頷いたときだ。
「静かにしろ!」
 教官の声が室内に響く。
「今回、特別にクルーゼ隊長においでいただいた。まずは、MSというものの動きをその目に焼き付けておけ」
 ここの訓練はそれから始める。そう彼は続けた。おそらく、そこで適性を確認するつもりなのだろう、ということはわかる。
「キラ・ヤマト」
 しかし、何故そこでキラの名前が彼の口から出てくるのか。
「はい」
 上官に呼ばれた以上、直ぐに反応するように、というのがアカデミーで一番最初にたたき込まれることだ。それにキラも従ったに過ぎない。
「ご指名だ。シミュレーションでクルーゼ隊長のお相手を務めるように」
 しかし、このセリフは誰も予想していなかった。その言葉に、その場にいた者達の視線がキラへと集まる。その中で、キラは毅然と顔を上げていた。



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