アカデミーの学習内容は、本当に多岐にわたる。その中には、キラの体力では辛いのではないか、と思えることも多い。
「本当、よく頑張っているよな」
 自分が口にしてしまったのだろうか。そう思えるようなセリフを口にしたのはハイネ、だ。
「……驚かせるな」
 血縁関係があるわけではない。だが、何故か自分とよく似た声の主に、ミゲルは反射的にこう言い返す。
「気付いていたんじゃないのか?」
 相手は低い笑いと共に言葉を口にする。
「それとも、あいつだけ見ていた?」
 そう言いながら、ハイネは視線を動かした。その先には、フレッドにしごかれているキラの姿があるのは言うまでもないだろう。
「否定はしないけどな」
 よくもまぁ、あの小さな体でフレッドの攻撃を受け流せるものだ。そう呟く。
「確かに」
 ハイネも同意をするように頷いて見せた。
「でも、逆に言えば、あの小さな体だから、じゃないか?」
 小さい上に、スピードがあるから、相手の死角に入りやすい。それを本人もわかっているから、有効に利用しているのだろう。
 もちろん、フレッドの方もキラのそんな長所を伸ばそうとしているのだろうが。
「問題は、スタミナだよな」
 自分たちが自主訓練をしている間、キラは開発局に拘束されている。だから、どうしても体力面での伸びは今ひとつだと言っていい。
「まぁ……あの年だしな」
 まだ十三歳――もうじき、十四になるのだっただろうか――なのだ。そう考えれば、これからいくらでも伸びていくだろう。
「それに、キラの場合、開発に向かうんじゃないか?」
 他の科目もそれなりに上位に食い込んでいる。しかし、その中でもあのプログラミングの才能は教官すら追随できないものだ。今ですら、授業をさぼらせてでも拘束しておきたいと思っている連中が見逃すはずがない。
「そうなると、卒業後までは面倒見られなくなるなぁ、やっぱ」
 何か、保護者ポジションが定着しつつあるんだけど……とミゲルは苦笑と共に告げた。
「他の連中にもそう言われているしさ」
 もう、一生面倒見ろ……などというセリフを口にしてくれるものまでいる。
「まったく……一生なんて、それこそ結婚でもしないと無理じゃないか」
 自分だってキラだって軍人になるのに、とそう付け加えた。軍人になってしまえば、辞令一枚でどこにとばされるかわからないのに、とぼやくように告げる。
「……まぁ、それはそうだな」
 ハイネがこういった瞬間だ。周囲からどよめきがあがる。
「キラの勝ちだぞ」
 偶然かもしれないが、凄いな……とハイネは素直に感嘆の言葉を口にした。
「そうだな」
 自分たちの中で――たとえハンデ付きとはいえ――彼に勝てたのはキラが初めてだ。だから、素直に凄いと言える。
「ってことは、俺たちも頑張らないと……フレッドに何を言われるかわからないぞ」
 一番最初に勝ったのがキラだとするならば……とハイネは顔をしかめる。
 しかし、ミゲルはそれを聞いていなかった。
「キラ!」
 目の前で小さな体が大きく揺らいだのだ。そのまま前のめりに倒れそうになっている。
 反射的にミゲルは飛びだした。そして、手を差し伸べる。
「……体力切れだな」
 だが、それよりも早くフレッドの腕がキラの体を支えていた。
「まったく……開発の連中に苦情を入れておかないと」
 ため息とともに彼はミゲルにキラの体を渡す。
「せっかく、いい才能を持っているのに、連中のせいで一番の基本が身に付かない」
 体力がなければ、どれだけ優秀でも戦場に出せないだろうが。いや、才能があるからこそ、戦場に放り出される。その結果、戦死では意味がないだろう。彼はそうも続ける。
「まぁ、いい。休ませておけ」
 次、と彼は直ぐに二人から離れていく。
「一番、戦場が似合わなそうなのにな」
 彼の背中を見送ったところで、ミゲルはキラの体を抱き上げる。そして、とりあえず芝生の上に移動させようときびすを返した。



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