これも、ウマが合うと言うことだろうか。そう思いながら、キラは首をかしげる。
「世話を焼かれても、いやじゃないんだよね」
 アスランの時と違って、と口の中だけで付け加えた。あるいは、ミゲルの方が年上だから、かもしれない。
 それとも、彼の方が適切な距離を知っているからだろうか。
 キラが手助けをして欲しいときとそうでないとき。
 それは本当に紙一重の差でしかない。
 だが、ミゲルはそれを的確に感じ取ってくれるのだ。
「そう言えば、ミゲルには弟さんがいるんだっけ」
 それだから、きっと、そのあたりのことはわきまえているのだ……とキラは思いあたる。
「あの人達もそうだったもんね」
 アスランは知らない、自分のここでの保護者達の顔を思い浮かべながら、そう付け加えた。
 もっとも、彼等は忙しすぎて自分のことまで気を回していられなかったのかもしれないが。
 そんなことを考えながら、今日使うであろうものを鞄へと詰め込んでいく。
「キラ!」
 そんなキラの背中に、ミゲルの低い声が投げつけられた。
「何?」
 これは怒っているときの声だ。その程度はキラにもわかるようになっていた。でも、彼が何を怒っているのかがわからない。
「朝飯は?」
 小首をかしげるキラに、ミゲルはさらにこう問いかけてくる。
「朝ご飯? 食べたよ。開発局で」
 サンドイッチとコーヒーだけだけど……とキラは続けた。もっとも、それだけでも十分なのだが。
「そうか」
 その瞬間、彼はあからさまにほっとしたような表情を作る。
「ミゲル?」
「食堂のオッちゃんが、お前が飯を食いに来てないって心配しててな」
 前に一回、飯を抜いて倒れたことがあっただろう? と言われて、キラは視線を彷徨わせた。
「あれは……テスト前で、色々とせっぱ詰まっていたから……」
 食事を取る間も惜しかったのだ。そう言いながらも、何故かミゲルを直視できない。
「……事情はわかるがな。だからといって、体をこわしたら意味がないだろう?」
 そうだな、と彼は続ける。
「飯の時間が取れそうにないときには、俺に連絡を寄越せ。オッちゃんに頼んで何かつまめるようなものを用意してもらうから」
 オッちゃん達も嫌がらないだろう。そう言って彼は笑う。
「でも、そこまで迷惑をかけられないよ」
 自分一人のために、とキラは言い返した。
「気にするなって。オッちゃん達にしてみれば、お前が無事にザフトの一員になれることの方が重要なんだろうし」
 自分としても、キラと一緒にザフトの一員になりたいのだ。そう続ける。
「もっとも、同じ隊になれるかどうかはわからないがな」
 それでも、一緒に卒業できるだけでいいよ……と彼は笑いながらキラの髪をぐちゃぐちゃにかき乱す。
「ちょっと、ミゲル!」
「というわけだから、さっさと準備をしてしまえ」
 今のところは、とりあえず、お前の言葉を信用しておいてやるから……と彼はそのまま口にした。
「……ミゲル」
 本当に、彼はどこまで気付いているのだろうか。
 そう思わずにはいられない。
「ほらほら。遅刻するぞ」
 それを問いかける前に彼がこう言ってきた。
「もう、そんな時間?」
「そんな時間だよ」
 ミゲルの笑い声が室内にこだました。



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