丁寧に、荷物を箱の中へと入れていく。
 これらの荷物ともしばらくの間はお別れだ。キラがそう心の中で呟いたときだ。
「キラ!」
 音を立ててドアが開かれる。そのまま、転がるようにアスランが踏み込んできた。
「ザフトのアカデミーに入学を決めたって、本当なのか?」
 こう言いながら、彼はキラの顔をのぞき込める場所まで駆け寄ってくる。
「本当だよ」
 そんな彼に向かってキラは静かな声音でそう言い返した。
「どうして!」
 逆に、アスランは怒っているような焦っているような口調でさらに追及の言葉を口にする。
「それが一番いいから、かな?」
 自分にとって、とキラは微笑み返す。
「そうすれば、確実にプラントにいられるもん」
 両親が生きていたときならばともかく、今はオーブに帰りたくないし……とさりげない口調を作って付け加えた。
 しかし、今はまだ、キラの移民申請は受理されていない。オーブにいる自称親族が何かを言ってくれば、連れ戻されるのは目に見えている。
 だが、アカデミーに入学してしまえば、その心配は少なくなるのだ。そして、卒業をすれば、八割方の確率で移民申請が受理される。
 自分がここで暮らすための一番の早道がそうである以上、それ以外の選択肢は考えられなかった。
「だからって、何で、ザフト……」
 キラは、戦うことが嫌いだろう? とアスランは怒ったように言う。それは否定できない。しかし、とキラは口を開く。
「……一番安全を確保しやすいから、と言われた」
 少なくとも、アカデミーを卒業した後は……と付け加えた。
「それに、誰に迷惑をかけることなく勉強できるし」
 ザフトにも開発局はある。だからなのか。プラント内で、一二を争うほどプログラミングに関するカリキュラムのレベルは高いのだ。
「そんなもの!」
 だからといって、認められるか! とアスランは怒鳴りつけてくる。
「俺はお前にそんなことをして欲しくないんだよ!」
 キラは自分の傍にいればいいのだ、と彼は付け加えた。
「……それは、君の都合だよね」
 自分の都合ではない。キラは少しだけ声音に怒りを滲ませながら聞き返す。
「それを言うなら、ザフトアカデミーに入学することも、お前の都合だろう?」
「自分のことだから、いいじゃない」
 自分で決めたことだ。どのような結果になったとしても後悔しない。キラはきっぱりとした口調でそう言いきった。
「……お前と話をしても、結論は出ないな……いい。父上に頼んでくる」
 そうすれば、全ては解決するはずだ。そう口にすると、アスランはきびすを返そうとする。
「……その、おじさまが一番安心していたけど?」
 自分がアカデミーに入学して、とキラは冷たい口調で指摘をした。
「……キラ?」
 何を言っている、と言いながら、アスランが振り向く。その動きが壊れたマイクロユニットのようだ、と思ってはいけないのだろうか。
「今、何と言った?」
 そのまま、彼はこう問いかけてくる。
「僕がザフトに入隊すると決まって、一番安心したのは、おじさまだって言ったんだけど?」
 というよりも、それ以外の選択をさりげなく塞ごうとしていた。そう言いかけて、キラはやめる。そこまで彼に父を疑うような言葉を口にする必要はないだろう。そう判断をしたのだ。
「何故……」
「そこまでは、僕にもわからないよ」
 自分はパトリックではない。
 だが、そうしなければ自分の身柄が危なかったことだけはわかっている。あの人も、そう言っていた以上、否定できない事実だろう。
「だから、おじさまに言っても無駄だよ」
 それに、今更取り消せない。キラはそう続ける。
「俺は……」
 アスランが小さく唇を振るわせながら、言葉を口にし始めた。
「俺は、そんなこと、認めないからな!」
 そう叫ぶと共に、そのまま部屋を飛びだしていく。
「認められなくても、もう遅いんだよ、アスラン」
 彼のその背中を見送りながら、キラはこう呟いていた。

 その日を境に、キラはアスランと会うことを拒んだ。その理由は、言うまでもないだろう。



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