そのまま、部屋まで戻ったからだろうか。
「何かあったのか?」
 即座にディアッカにこう問いかけられる。
「変な女にキラが押し倒されて絡まれていただけだ」
 少なくとも、自分にとっては、この認識で間違っていない。だが、キラにとっては違うだろうと言う事もわかっている。
「すみません……フレイはいつもはあんなじゃないんですが……」
 今日はよほど焦っていたようだ、と自分が悪いわけでもないのにキラは謝罪の言葉を口にした。
「……また、あの女、キラさんに迷惑をかけたんですか?」
 その瞬間、シンが即座に口を挟んでくる。
「シン……別に、僕はフレイに迷惑をかけられている訳じゃないよ」
 自分が彼女たちに迷惑をかけることもあるのだし。キラはそう言い返す。
「でも、あいつがキラさんに迷惑をかける方がずっと多いじゃないですか!」
 それも、自分勝手な理由で……と彼は唇をとがらせる。
「百歩譲って、キラさんがひまなときならいいですよ。あいつが来るときは、たいがい、キラさんが忙しいときだし」
 それも、抜けられないような状況にある時を狙って来るじゃないか、とさらに言葉を重ねた。
「……そうかな?」
 キラはそのことを認識していなかったのか。首をかしげている。
「……イザーク……」
 しかし、自分たちはそうではない。
 先ほどの様子にしても、何かが引っかかるのだ。
「キラの前ではしない方がいいだろうな」
 でないと、最終的に悪口にしかならないと思うぞ。イザークはそうも付け加える。それに、キラには自分たちが事実を知っていると悟られたくない、とも囁き返した。
「あぁ、そうだな」
 確かに、その方がいい……とディアッカも頷いてくる。
「しかし、本当にどちらが年上なのか……って光景だよな」
 後でシンに確認するにしても、今は止めた方がいいのではないか。彼はさらに言葉を重ねた。
「確かに。止めた方がいいとは思うが……」
 何と言って止めればいいのか。それがわからない。何よりも、とイザークは眉を寄せる。
「俺が間にはいると、間違いなく火に油を注ぐ結果になるぞ」
 自分がそういうことは苦手だ、とイザークは自覚していた。もっとも、それがどうしてなのかと言われると、今ひとつ理解に苦しむが。
「はいはい。わかってるって」
 それに関しては俺の役目だよな……とディアッカがため息をつきながら頷く。二人の間に割って入ろうとしているのか。そのまま彼等の方に歩み寄ろうとした。
「……シン、そこまでにしておけ」
 だが、それよりも早くレイがシンに声をかけている。
「キラさんが優しいのはお前もよく知っているだろう?」
 相手が女性であればなおさらだ、と彼はそういいながら、さりげなく二人の間に割って入っていく。
「それは知っているけど、さ」
 でも、そのせいでキラが困るのはいやだ……とシンは言葉を重ねる。
「だから、俺たちが気を付けていればいいだろう?」
 普段は、自分が一緒にいるのだし……とレイが言うのは、彼がキラと同じくデュランダルのゼミに所属しているからだろう。
「今日だって、イザークさんのおかげで何とかなったんだ。キラさんを一人にしなければ大丈夫だ」
 この言葉に、キラが一番困ったような表情を作っている。
「……二人とも、僕が年上だとわかっているの?」
 そのまま彼はこう主張した。
「わかってます」
「でも、キラさんが心配なんだもん」
 しかし、この場合、分は年下の二人にあるのではないか。
「まぁまぁ、そこまでにしておけ」
 それよりも、せっかくの料理が冷めるんだけど……とディアッカが苦笑と共に口を挟んだ。
「とりあえず、今日の所はイザークが頑張ったって事で収めようぜ」
 キラとレイはこの後、一晩、実験の監視に行かなければいけないんだろう? だったら、その前に食事を終わらせておかないと大変ではないか。
 この言葉に、どうやらシンも怒りの矛先を収めたらしい。
「……キラさん、食べられます?」
 食事、と代わりに問いかけている。
「多分……」
 その言葉の裏に『子供扱いして……』と言うセリフが隠れているような気がするのは錯覚ではないだろう。
「食べられるだけでいいぞ」
 無理はしなくていいからな、とディアッカが笑いかけている。それにキラは素直に首を縦に振ってみせた。
「では、久々にディアッカの手料理をいただくか」
 少しは上達したんだろうな、とイザークはからかうように口にする。
「……お前な……」
 お前の口に合うような料理を作る方が難しいわ! とディアッカは即座に言い返してきた。
「……まずいと言ったことはあるが、残したことはないつもりだぞ?」
 文句があるのか? と言葉を返す。自分たちの言葉に、ほっとしたのか。キラが小さな笑いを漏らしたのがわかった。