キラとレイが研究室に行くのを見送ったのは、つい先ほどのことだ。
「フレイ、とはどういう奴だ?」
 自室に戻ろうとしたシンを引き留めて、イザークはこう問いかける。
「……聞いて、どうするんですか?」
 それに彼はこう聞き返してきた。その瞳には警戒の色が浮かんでいる。
「これからも、キラとは仲良くしていくつもりだからな。なら、聞いておいた方がいいと思わないか?」
 でなければ、フォローが出来ない可能性がある……とそう言い返す。
 シンやレイが側にいられないときだってあるだろう、とイザークはさらに言葉を重ねた。
「そうだよなぁ。どうやら、キラは俺たちの世話役って事になっているみたいだし……一緒にいても誰も何も言わないからな」
 ディアッカもまたこう言って頷いている。
「何よりも、俺たちもキラは気に入っている」
 だから、少しでもキラが厄介ごとから遠ざかることが出来るのであれば、その方法を知りたい。そうも思う。
 しかし、とイザークは心の中で呟く。
 それは彼が《特別》だからではない。キラが《キラ》だからそう思うのだ。
 彼が、自分をただの《イザーク》として見てくれるからかもしれない。同じように、ディアッカも感じているはずだ。
 もっとも、シンがそれを理解してくれるかどうかは別問題だろう。
「何よりも、あいつと一緒にいると俺が楽しいからな」
 世話を焼くことも含めて、と付け加えた瞬間だ。シンが微妙な表情を作る。
「どうかしたのか?」
 その表情に、思わずこう問いかけてしまう。
「……いや、あんた達もか……って思っただけだ」
 また増えた、とそう思っただけ……とシンはため息をつく。
「レイもそうだしさ。他にも、あっちの学部とかにも何人かいる」
 自分的には凄く面白くないけど、キラのためにはその方がいいのだろう……と彼は続ける。
「でも、あんた達、これだけは覚えておけよな。キラさんを傷つけたら、ただじゃすまないからな!」
 自分だけではない。ここにいない者達もみな、持っている力を使ってそれなりの事をするはずだ。彼はそうも言いきる。
「俺にはたいしたことが出来ないけど……ものすごく恐い人が俺が知っているだけでも二人ほどいるからな」
 その覚悟があるのか、と彼は言外に問いかけてくる。
「傷つけるようなら、最初から親しくなろうとは思わない」
 適当な距離で相手をして終わりだ、とイザークはシンをにらむように見つめた。
「……なら、いいけど」
 確かに、自分たちだけではそろそろまずいかな、とは思っていたんだ。シンはため息をつく。これは認められたと言うことなのか、とイザークは心の中で呟いた。
「少なくとも、フレイよりましみたいだし」
 しかし、このセリフには納得していいのだろうか。
 あの女と一緒にして欲しくない。心の中でそう呟く。
「で? どういう奴なんだ、そいつ」
 本人を知らないからか。ディアッカは気軽な口調で問いかけている。
「一応、本人の国籍はオーブらしいけど……でも、父親は大西洋連合の事務次官なんだよ」
 だから、余計に要注意なんだよな……とシンはため息をつく。
「キラさんが本土からここに来たのだって、連中のせいなのに」
 過去に何度か、拉致しかけられたから……と吐き捨てるように口にする。
「キラが拉致されかけた、とは聞いていたが……犯人は大西洋連合だったのか」
 イザークはこう呟く。
「あんた、誰から聞いたんだよ!」
「デュランダル博士だ。俺もこいつも、昔からその手のことに関しては注意されて育ったからな。ついでに、キラのことも気にかけておいてくれると嬉しい、と頼まれただけだ」
 一応、護身術も身につけているからな……とそうも付け加える。
「博士にしてみれば、お気に入りの学生が連中に利用されるのはいやなんだろう」
 もっとも、それだけですむとは思えない。あちらの連中はコーディネイターの人権をほとんど認めていないのだ。
 それでもキラは第一世代だから、まだましな扱いをしてもらえるかもしれない。もちろん、それが救いになるとはまったく考えていないが。
「そっか……」
 デュランダルならば納得だ、とシンは頷いてる。それだけ、彼はここで信頼を得ているのか、とイザークは判断をした。
「って言うわけで、話を戻すけど……今まで、何回も、キラさんはあいつに連れ回されているんだけど……キラさんとあいつだけの時に拉致されかける可能性が高いんだよな」
 もっとも、人目がある場所に行くことが多かったから未遂ですんでいたようだが……とシンは付け加える。
「……そいつ、キラと仲がいいのか?」
 不意にディアッカが質問の言葉を口にした。
「仲がいいのは、あいつの婚約者の方。キラさんと同じゼミだったんだよ。前の学部で」
 その関係で、よくキラ達のゼミに顔を出していたのだ、とか。そうしている間に、それなりに親しくなったらしい。
「それにしても、何で人目のある場所だけに行くんだか」
 本気でキラを拉致させようとするなら人目のない場所の方が都合がいいだろうに。ディアッカのこの言葉にイザークも頷いてみせる。
「今日にしても、あの登場のしかたは唐突だったな」
 キラに声をかけるのであれば、もっと別の場所でもよかったのではないか。
 確かに寮の前が一番捕まえやすかったのかもしれない。だが、キラが帰ってくるとは限らないと言うことは知っていたはずだ。
「……って言うか、わざとそういう場所に連れて行っているわけじゃないよな?」
 そいつ、とディアッカはさらに言葉を重ねる。
「本人は不本意だが、誰かに命令されてキラを連れ出さざるを得ない、と言いたいのか?」
 彼の言葉に、イザークもこう聞き返す。
「あくまでも可能性だがな。俺は、そいつ知らねぇし」
 聞いた話では、拉致するには不適切な状況な用だし……と言い返してくる。
「まぁ、そうだとしても、出来るだけ接触させないほうがいいって言うのは事実だろうけど」
 何かの拍子でキラの拉致が成功する可能性だってあるからな。その言葉は真理だ。
「あぁ、そうだな」
 だから、必ず誰かがキラの側にいるようにしないといけないだろう。イザークはこう告げる。
「……まぁ、それは何とでもなるな。時間はいくらでも作れる」
 カレッジに関しては、追い出されなければいいのだから。心の中で呟けば、ディアッカも頷き返す。
「と言うことで、キラの基本的なスケジュールについて教えてくれ。時間を合わせることが可能なら、そうした方がいいだろう?」
 イザークのこの言葉に、シンも頷いてみせた。