「君に、個人的に見せたいものがある」
 そういいながら、デュランダルが腰を上げたのはそれからしばらくしてのことだ。
「もちろん、キラも一緒に来るだろう?」
 デュランダルは微笑みながら、キラに問いかける。
「……ギルさん……」
 そんな彼に、キラは不安そうな表情を向けた。それはどうしてなのだろうか。
「彼なら大丈夫だよ」
 デュランダルが言葉とともにキラの肩に手を置く。
「それに、エザリア様も君の味方だろう?」
 この言葉に、イザークは思わずデュランダルを見つめてしまう。
「母が、ですか?」
 いったいいつの間にエザリアとキラが知り合ったと言うのだろうか。もっとも、彼女の好みを考えれば、キラが嫌われている可能性はないと思える。むしろ、気に入られたのではないだろうか。
 それだからこそ、不安だと言える。
「そう。通信で、だがね」
 キラには自分の補佐を頼んであるから、という言葉には一応、説得力があった。しかし、それだけではないのだろう。
「そうですか」
 だが、それは彼が『見せたい』と言っているものを見ればわかるのではないだろうか。
「家の母は、どちらかと言えばミナさまによく似ている。だから、キラは気に入られるだろうな」
 下手をしたら、自分よりも優先されるかもしれない。そういってイザークは笑ってみせる。
「そうなの?」
「あぁ。だから、母が許可を出したのならば、俺には拒否権はないに等しい」
 もっとも、自分が納得できないことは彼女も許可をしないとわかっているが。イザークはそういって微笑みを深める。
「だから、お前は何も心配しなくていい」
 そのおかげで、キラに会えたわけだし……とそうも付け加えた。
「……うん……」
 そうだね、とキラが苦笑を浮かべたのは、既に母の洗礼を受けていたからか。
「と言うことで、君が心配をすることはなさそうだよ」
 気をつけなければいけないのは、間違いなくイザークだ。そう付け加えら得て、苦笑を禁じ得ない。
「これから、彼に見せることも心配はいらない」
 既にエザリアからは許可を貰ってある。万が一の時には彼女が責任をとってくれると行っていただろう? とデュランダルはまた口にした。
「そうでなかったとしても、代わりをしたいと思っている人間はいるからね」
 自分も含めて、と彼はさらに笑みを深める。
「……何のことかはわかりませんが……俺がキラに関わることで責任を放置するようなことはないかと思いますが?」
 むしろ、関わり合いがなのであれば強引にでも関わりを持ちたいとも思う。
「だそうだよ、キラ」
 こうまで言われたのなら安心だね、とデュランダルは笑みを深めた。
「と言うことで行くかね?」
 あぁ、レイは片づけを頼むよ……と彼は養い子に声をかける。
「はい」
「では」
 頷く彼を確認してからデュランダルは二人を促す。
「キラ」
 行こう、とイザークはキラに手を差し出した。
「うん」
 言葉とともに、キラはそっと手を重ねてくれる。そのまま、椅子から立ち上がった。
「こちらだよ」
 その様子に笑みを深めながらデュランダルは歩き出す。その後を、キラの手を握りしめながらイザークも付いていく。
「今、何人ぐらいの子供が誕生の時を待っているのですか?」
 ふっと浮かんできた疑問をデュランダルの背中に向かって、投げつけてみる。
「十二人、だったかな?」
 キラ、と彼は確認の言葉を口にした。
「今日、あの子が生まれましたから……十一人です」
 その他に、着床を確認中の受精卵が三個ある。キラは即座にそう言い返す。
「もっとも、どの受精卵も着床までは大丈夫だと思います」
 問題は、その後だ……とキラは続けた。羊水がちょっとバランスを崩すだけで、子供の発育が止まる、と彼は眉をひそめながら付け加えた。
「だが、その確率はかなり減ってきているからね。異常をすぐに察知できるシステムも完成している」
 君のおかげで、とデュランダルは口にした。
「……それが、僕の仕事ですから」
 それに、自分もそうしなければいけない理由が出来ていたし……とキラは微笑んだ。
「その理由の一つに俺も関わっているのであれば、嬉しいがな」
 イザークはそんな彼を振り返りながら言葉を口にする。それに、キラは一瞬目を大きく見開く。だが、次の瞬間、幸せそうに笑みを深めた。