透明な器の中に液体が満たされている。
 光をぎりぎりまで抑えているのは、きっと、その中で芽生えた命を驚かせないためだろうか。
「あぁ。丁度いいタイミングだったね」
 そんな二人の姿を見つけたデュランダルが微笑みと共に視線を向けてくる。
「今から、あの子が人工子宮からでるよ」
 一番最初に人工子宮で芽生えた命だ……と彼は付け加えた。
「よかった。もう大丈夫なんですね」
 キラがほっとしたような表情で言葉を返している。
「そうだ。だが、子供の安全のためには、あの中よりも保育器の方がいいだろうという結論に達してね」
 ご両親の同意も得られたから、これから出すところだよ……とデュランダルは微笑み返した。
「その後で、羊水その他を分析に回さないとね」
 いったい、何故、このようなことが起きたのか。その原因を追及しなければいけない。そうも彼は付け加える。
「そうですね。データーの解析なら、僕の担当ですし」
 他の子供達のためにも、原因を解明しないと……とキラも頷く。
「だが、それは後で、でも構わないだろうね」
 今は、彼等の喜びに水を差してはいけない。
 言葉とともに期待に満ちた眼差しで人工子宮の中にいる子供を見つめている二人へ、デュランダルは視線を移動させた。
「博士!」
 準備が整ったのか。研究員の一人が声をかけてくる。
「十分に気をつけるように。特に、子供のはいにはいっている羊水には注意をしてくれ」
 あぁ、羊水のサンプルも忘れずに……と彼は指示を出す。
「ドクターは、待機しているかな?」
「はい。大丈夫です」
 その言葉に、デュランダルは頷いてみせた。
「では、羊水を排水してくれたまえ」
 その後で、へその緒を切ろう……と彼は続ける。
「あぁ、それは君達の手で行った方がいいだろうね」
 君達の子供だ、とデュランダルは、二人に声をかけた。
「私たちが?」
「……ですが……」
 デュランダルが行うべきではないのか。ためらいながらこう問いかけてくる。
「君達の子供だよ。当然の権利だ」
 だが、デュランダルは静かにこう言い返す。
「本当に、よろしいのですね?」
 最後の確認、というようにもう一度問いかけられた。デュランダルの首が縦に振られたのを見て彼等はようやく彼が本気でそういっているのだと理解できたらしい。うれしさを表情に滲ませている。
「では、いいね?」
 彼の言葉を合図に作業が始まった。
 データーを確認するためか。キラがモニターの方へと移動をしていく。
 だが、イザークはその場を動くことが出来なかった。
 やはり、自分の体内で育てなかったとしても、親は親なのだ。生まれてくる子を待ちわびる気持ちに代わりはない。
 だとするならば、自分もそんな気持ちになれるのだろうか。
 いや、絶対になれるはずだ。
 先ほどのキラの話が本当だとするならば、自分と彼の遺伝子を受け継いだ子供がこの中で育まれる可能性もある。
 そう考えた瞬間、思わず頬がゆるんでしまう。
 後でこっそりと、デュランダルに頼んでみようか。エザリアが反対をするはずがないから、後はキラの許可だけだろう。そして、キラはきっと、頷いてくれるはず。
 そうなったら、全力で幸せにしてみせる。
 本当は、キラとも一緒に歩んでいきたいのだが……彼の立場を考えれば、それは難しいだろうか。
 キラ本人は「いい」といってくれても回りが反対をするのは目に見えている。だが、それでもキラが彼等を押し切れれば、可能かもしれない。
 そうなってくれるように、自分が努力をすべきなのだろう。
 イザークがこんなことを考えていたときだ。
 周囲に元気のよい泣き声が響き渡る。
「生まれた!」
「……あぁ、元気だ」
 そのような声がその場にいた者達の口からこぼれ落ちた。
「よかったな」
 イザークもまた、こう声をかける。
「君達。後はドクターにお願いをして、健康診断をして貰いなさい。何よりも、そんな風にいじくり回しては、その子が疲れてしまうよ?」
 せっかく、無事に生まれられたんだ。きちんと成長をさせてあげないといけないだろう。デュランダルはこう言って、彼等に注意を促す。
「それに、体も拭いてあげなければいけないだろう?」
 さらに言葉を重ねていく彼に、どうやら周囲も落ちつきを取り戻したようだ。
「そうでした……」
「すぐにドクターを」
 次々と自分がすべき事を行っていく。
 その邪魔にならないように、イザークはキラの背後へと移動した。