事前に何か指示をされていたのだろうか。手続き自体はあっさりと終わった。
「この後は……部屋に行ってから、オーブ軍の詰め所でいいんだよね?」
 小首をかしげながらキラが問いかけてくる。
「あぁ」
 そうなのだが、少し拷問かもしれないな……と心の中で呟く。一緒にいた頃は気が付かなかったが、キラのかわいらしい仕草というのは、ものすごく凶悪だ。それとも、しばらく目にしていなかったから余計にそう思うだけなのだろうか。
 キスをしたい。
 先ほどからこの欲求を抑えるのに苦労している。それをキラは気付いているのだろうか、とイザークは内心で苦笑を浮かべていた。
 自分がここまで速物だとは思わなかった。
「……その前に……ちょっと、付き合ってくれる?」
 キラはどうなのだろうか。そう考えていたときだ。そっとイザークの袖を掴むと、キラはこう口にしてくる。その頬が真っ赤に染まっているのは、自分の見間違いではないだろう。
「どうかしたのか?」
 熱でもあるのか、と思うが、触れあった彼の肌はそういった意味で熱を孕んではいない。
「すぐ、だから」
 イザークの問いかけを否定と受け取ったのか。キラはすがるような色を瞳滲ませている。
「お前の頼みを『いやだ』というはずがないだろう?」
 ただ、少し驚いただけだ……とイザークは苦笑と共に告げた。それだけで、キラはほっとしたような表情になる。
 しかし、そんな彼の表情を見て自分も安堵をしていることをイザークは自覚していた。
「それで?」
 どこに行けばいいんだ? とその感情のまま微笑めば、キラはさらに顔を赤くする。
「こっち」
 それでも、彼はこう口にすると、少し離れた場所へとイザークを案内していく。どうやら、ここは居住区と港湾部の境目らしい。
「……ここなら、誰にも見られないから……」
 トマトのように顔を真っ赤にしながらキラは必死に言葉を綴る。
「だから、キスしても、いいですか?」
 恥ずかしさで身の置き所もない。そんなそぶりでいわれた言葉に、イザークは一瞬目を見開く。
 だが、すぐに満面の笑みが口元に浮かんだ。
 自分だけではなく、彼も同じように自分を欲してくれていた。その事実が嬉しい。
「ちょうど、俺も同じ事を考えていたところだ」
 だから、そんなに恥ずかしがるな。こう囁いてやりながらもそっと彼の頬に触れる。
 そのまま、静かにキラのあごを持ち上げた。
「キスしかできないのが、少し残念だな」
 唇を触れあわせる直前に、こう囁いてやる。
「イザークさん!」
 言っている意味がわかったのだろう。キラがこれ以上はないくらい真っ赤になる。
 その熱を吸い取ってやろうかというように、イザークは薄く開かれたままの彼の唇に自分のそれを重ねた。
「んっ」
 キラの喉から、甘いうめきが漏れる。
 それを耳にした瞬間、イザークの中心に熱が集まり始めてしまった。だが、それを解放することは等分できないだろう。だから、我慢できなくなるぎりぎりでキラの唇を離す。
「続きは、後でな……」
 そう囁けば、少し潤んだ瞳でキラは頷いてくれる。
「しかし……よくこういう場所を見つけてきたな」
 お互いに、少しでも熱を冷まさないといけないだろう。
 しかし、少しやりすぎただろうか。だが、自分としては物足りない。そういったら、キラはどのような表情をするだろうか。
 確かめたい気もするが、そうすれば、キラの熱がまた上がりかねない。だから、我慢すべきではないか。
「ムウさんが……」
 教えてくれた、とキラは視線をそらせながら口にする。それは、きっと、彼なりの熱のさましかたなのだろう。
「……あの人か……」
 ひょっとして、さぼりスポットなのではないか。それとも、とイザークは苦笑と共に口にした。
「ムウさんは、時々行方不明になるみたいだから、そうかも」
 デスクワークがにがてだから、よく逃げ出すんだよね……とキラはため息とともに教えてくれる。その頬の赤みがかなり薄れてきたように見えるのは、錯覚ではないだろう。
「……それは、俺にも関わってきそうだな」
 苦笑と共に言えば、キラは「そうかも」と言ってくる。
「では、そろそろ行くか」
 もう少し二人だけでいてもいいかもしれない。しかし、それではその後の手続きが遅れることになる。
 それよりは、そちらをさっさと終わらせて二人だけでゆっくりとした方がいいのではないか。
 もっとも、それが実際に出来るかどうかはわからない。絶対に邪魔が入るに決まっているような気がする。
「そうだね」
 まぁ、それでも同じ場所にいれば、機会はいくらでも作れるだろう。
「それが終わったら、ラボの方を案内しますね」
 微笑みながら、キラがこう言ってくる。それに、イザークは頷いてみせた。