アメノミハシラは、本来、軌道エレベーターの起点となるべく作られたから、だろうか。イザークが知っている他のプラントとはその形状からして異なっていた。
 しかし、その設備はほぼ同等だと言っていいのではないか。
 だが、その全てを知ることは出来ない。
 流石に、機密まで見せてくれ……と言う権利はないだろう。
 それでも、いざというときにキラを連れて逃げられるルートだけは複数、確保しておきたい。
「……ミナ様に相談すればいいか」
 少なくとも、デュランダル達が教えて貰っている程度の情報は与えてくれるだろう。
 そう考えて、資料を閉じる。
 タイミングを合わせるかのようにシャトルが停止した。どうやら、無事に着岸したようだ。
「さて……行くか」
 言葉とともに立ち上がる。そして、内壁に取り付けられているカーゴボックスから鞄を一つ取り出した。
 この鞄一つが、自分の私物だと言っていい。その事実を改めて認識して、思わず苦笑が浮かんでしまう。
「キラが見たら、何と言うだろうな」
 今の自分の姿を……と思いながら通路をハッチへと向かった。
「……ひょっとしたら、怖いのか?」
 キラの反応が、とイザークは呟く。
 自分が軍人だとしても、キラが嫌いになるはずがない。それはわかっていても、こう考えてしまうのは、自分が弱いだけなのか。
「我ながら、あきれるな」
 ディアッカ達にはあんな風に言って出てきたというのに、と苦笑を浮かべつつハッチから床に降り立つ。
 その時だ。
「イザークさん!」
 何よりも聞きたくて、それが怖いと思っていた声が耳に届く。
「キラ?」
 まさか、と思いつつ視線を向ければ、手を振っている彼の姿が見えた。
「こっちです」
 嬉しそうに手招いている彼に、先ほどまでの不安はあっさりと霧散してしまう。それよりも、何であんな事を考えてしまったのか……と逆にあきれたくなった。
「今行く!」
 言葉を返すものの、真っ直ぐに彼の元へと向かっていいものか、少し悩む。
 その前に色々と手続きがあるのではないか。
 だが、キラがこう言っているのであればその点は心配はいらないのかもしれない。
 何よりも、自分が一刻も早く彼に触れたいと思っている。
 結局、イザークはその欲求に負けた。
 真っ直ぐに彼に向かって床を蹴る。そのまま、キラの方に近づいていけば、彼も待ちかねているかのように手を差し出してくれた。その手を、ためらうことなく握りしめる。
「キラ……」
 彼の前に蘆を着きながら、そっとその名を呼んだ。
「会いたかった、です」
 はにかんだような微笑みと共にキラはこう囁いてくれる。
「俺も、だ」
 メールで近況はわかっていても、やはりこうして触れられる方がいい。そういって、イザークも微笑み返す。
「また、お前が、迎えに来てくれるとは思ってもいなかった」
 そして、それがこれだけ嬉しいことだとも思わなかった……とそう続ける。
「ミナ様とデュランダル先生が『行ってください』と言ってくださったから」
 すこしでも早く会いたいだろうから、と言われたときは恥ずかしかったが、否定できなかったから……とキラはさらに言葉を重ねた。その頬が少しだけ染まっているのは、間違いなく気恥ずかしさのせいだろう。
「だが、おかげで真っ先にお前に会えたな」
 それに関しては感謝しないと、と微苦笑と共に付け加える。自分たちのことを応援してくれているのか、それともからかっているだけなのか。それはわからないが、少なくとも邪魔をされていないだけいいだろうと思う。
「……それよりも……」
「何ですか?」
「入国の手続きは、どこですればいい?」
 他にもあれこれしなければいけないことがあるのではないか。
 以前の時はともかく、今の自分の立場であればきちんと手続きを終えなければ行けなければいけないのではないか。そう思って問いかける。
「それなら、こっちです」
 それも、きちんと聞いてあるから……と付け加えると、キラはそっと握りしめていた指に力をこめた。
 そんな些細なしぐさが可愛いと思ってしまう。
「そうか」
 そんな彼に導かれるがまま、移動を開始した。
 側に彼の温もりが感じられる。
 それだけで高ぶってくる自分の体に、イザークは焦りすら覚えてしまう。
 同時に、自分がそれだけ彼の存在に飢えていたのか、と改めて認識させられる。
 しかし、キラはどうなのだろうか。
 それを問いかけたい。しかし、どう切り出せばいいのかわからない、とイザークは心の中で呟いていた。