要するに、アメノミハシラにもザフトとの連絡が取れる存在をおきたい。その候補としてオーブ側にイザークが打診されられていた。
「で、許可が出た、ということだ」
 カガリがあれこれ画策していたことは否定しない。カナードはそうも付け加える。
「あいつが?」
 それは、間違いなくキラのためだろう。しかし、だからといって、そのような行動を彼女が取るとは思ってもいなかった。
「後は、ロンド・ミナだな」
 さらりとカナードが付け加える。
 その裏に隠されている意図は何なのだろうか。そう考えたくなったとしても罪はないのではないか。イザークはそう考えてしまう。
「不本意だがな。キラが寂しそうだから、しかたがあるまい」
 カナードはため息とともにこう告げる。
「それを口にしれくれればまだ何とかなるというのに、絶対にそんなことはしないからな、あいつは」
 だから、自分たちが気をつけていなければいけないのだ……と彼は続けた。
「今までは俺がしてきたが……ちょっと、別件で忙しくなりそうなのでな」
 だから、妥協してやる……とにらみつけられる。
「望むところです」
 キラの側にいて、彼を支えられるのであれば……とイザークは真正面からその視線を受け止めた。
「そう言わなければ、キラに嘆かれようと処分しているところだ」
 本当に、この人は怖い。
 何が起爆装置になるのかわからないから、余計に……だ。
 それでも、彼がキラを大切に思っていることだけは十分に伝わってくる。だから、恐怖を感じながらも逃げ出さずにすんでいるのかもしれない。
「そんなことは、させません」
 キラのためにはもちろん、カナードのためにも。そう告げれば、カナードは一瞬目を丸くする。
「本当……お前は妙な奴だよ」
 だからこそ、他の連中も認めたのだろうな……と彼は低い笑いを漏らす。
 そのまま、イザークの脇を通り過ぎていく。
「あいつのようにキラを裏切るなよ?」
 その瞬間、囁かれた言葉の意味は何なのだろうか。
「カナードさん?」
 慌ててそれを問いかけようと彼を振り返った。
「向こうに着いてから、キラに聞け」
 もっとも、本人が話すかどうかはわからないが。そう彼は振り向くことなく口にする。
「……あいつが話してくれるまで、待て……と言うことですね」
 要するに、とイザークは呟く。
「それだけデリケートな内容だ、というのでしたら、待ちますよ」
 知りたいとは思う。だが、知ることでキラを傷つけるのであれば、知らないままでいい。イザークはそう付け加える。
 この言葉を耳にした、カナードがどのような表情をしているのか、イザークは最後まで気が付かなかった。

 イザークへの辞令はそれからすぐに手渡された。
「よかったじゃん」
 にやりと笑いながらディアッカが声をかけてくる。
「キラの側にいられるんだろう?」
「あぁ」
 彼の言葉には他意がない。むしろ、喜んでくれているのがわかるから、イザークも素直に頷き返した。
「よろしくいっといてくれ」
 自分が会えないのは悔しいが、とディアッカは笑う。
「わかっている」
 苦笑と共にこう言い返す。
「キラも同じ事を言うと思うが?」
 キラは、友人としてディアッカが好きだったはずだ。だから、自分一人だけで行けばそんなことを言い出しかねない。
 しかし、嫉妬といった感情が浮かんでこないのは、間違いなく、二人の感情を自分が理解しているからではないか。
「だといいけどな」
 実際、ディアッカの表情に浮かんでいる感情は、友人に対するものだけだ。
「まぁ、俺にも機会があるだろうし……でなくても、厄介ごとが落ち着けば会いに行けるはずだし」
 いざとなったら、親父のコネを使うから……と彼は笑う。
「その時は、キラの好きそうなお菓子を持ってくるんだな」
 笑いながらそう言い返す。
「ついでに、あのうるさいのも拾っていくか」
 それが誰のことなのか、確認しなくてもイザークにもわかった。
「あれか……」
 周囲に迷惑がかかりそうだな、と思わず呟いてしまう。それでも、間違いなくキラは喜ぶだろう。
「シンも引っ張っていきゃいいだろう?」
 で、あれに押しつけてしまえばいいだろうが……と言われて納得してしまうのはいけないのか。
「そうだな」
 しかし、それが一番確実だろう。こう言って、イザークも頷く。
「というわけで、頑張れ」
 何をとは聞かない。だが、それで十分だ。
「お前もな」
 どうせ、すぐに顔を合わせる事が出来るだろう。そう考えて、イザークは言葉を返した。