そうしている間に、別れの日が来てしまった。
 永遠の別れではないとわかっていても、いつも側にあった温もりが失われるのは辛い。
「イザークさん……」
 同じように思ってくれるのだろうか。キラが哀しげに瞳をゆらしている。
「アメノミハシラは安全なのだろう?」
 なら、研究に専念できるな……とイザークは無理矢理笑顔を作って見せた。
「……でも……」
 イザークさんとは離れなければいけない。言葉を口にするとそのまま彼は視線を地面へと向ける。
「前は、研究ができればそれで十分だって、そう考えていたのに」
 そうすることが義務だから、とキラはそのまま続けた。
「でも、今は……」
「わかっている」
 俺も寂しい、とそっと耳元で耳元で囁いてやる。
「……イザーク、さん……」
 自分も、とキラは小さな声で言い返してきた。
「大丈夫だ。必ず、お前に会いに行く」
 キラが動けないならば、自分が動けばいい。ザフトの一員であれば彼の地に足を踏み入れることも可能だろう。
「他にもいくらでも方法はあるだろうからな」
 だから、心配はいらない。そう言ってイザークは笑う。
「……でも、いいの?」
 キラのこの問いかけに、首を縦に振ってみせる。
「別に、その位はな。むしろ、お前を守るためのあれこれも身につけられるだろうし」
 元々の任務に戻るだけだ、と言う一言は心の中だけで付け加えた。この点に関しては、後でディアッカ達とも口裏を合わせておかなければいけないだろうか。
「その位出来なければ、側に近づかせてもらえない可能性もあるからな」
 誰にとは言わない。それでもキラにもわかったのだろう。
「ミナさまなら、気になさらないと思うけど……」
 でも、ギナやカナード達は問題か。そう呟くキラに、イザークは苦笑を浮かべる。
「否定しきれないな」
 まぁ、それも自分がきちんとした技術を身につけてしまえばいいだけのことだ。イザークはそう言いきる。
「だから、できれば笑っていてくれ」
 頼むから、とそう続ければキラは小さく頷いてみせた。
「必ず、会いに行くから」
 何度も同じ事場を口にするのは芸がない。それはわかっていても、こう言うしかできない。
「……待っているから……」
 それでも、キラがこう言ってくれるようになったからいいのか。イザークは心の中でそう呟いていた。

 自分たちがここに来たとき、出迎えてくれたのはキラだった。
 しかし、今日は自分たちが彼等を見送っている。
「何か、変な気分だよな」
 ディアッカがぼそりとこういった。
「そうだな」
 確かに、これが一番いい判断なのだろう。それはわかっていても、感情は別物だ。いつかは、自分がキラに見送ってもらえると思っていたからなおさらなのかもしれない。
「でも、キラさんが安全なところに行ってくれたから、これから遠慮しないであれこれ出来るよな」
 無理しているとわかる口調で、シンがこう言っているのが耳に届く。
「まぁ、それはあんた達も一緒じゃないのか?」
 さらに付け加えられたこのセリフに、イザークは少しだけ目をすがめる。
「何が言いたいんだ?」
 何を知っているのか、と言外に付け加えながら、シンの顔をにらみつけた。
「あんた達が普通の学生じゃないって、レイからそう聞いているし……お義父さんやフラガ一佐もそう言ってたから……」
 そういう意味では、自分も普通の学生じゃないけど……とシンはさりげなく付け加える。
「……おい?」
「気が付いてないのはキラさんだけだって」
 キラは、軍人や軍関係者があまりに身近にいたせいでそれが普通だと認識しているから、と彼は続けた。
「……それは、感謝すべき事なのか?」
「俺に聞くな、俺に!」
 確認するように視線を向けてきたディアッカをイザークは思わず怒鳴りつける。
「だが、そいつがそう言っているなら、都合はいい。ラスティ達と合流して、さっさと後始末を終わらせるぞ」
 そうすれば、それだけ早くキラに会いに行けるだろう。
 何よりも、動いていれば離れている悲しみも忘れられるかもしれない。イザークはそう考えながらきびすを返す。
「はいはい」
 しょうがねぇな、とディアッカも就いてくる。
「……キラさん。この暴君のどこがよかったんだろう」
 シンのこんな呟きも耳に届く。しかし、それに関してはあえて聞かなかったことにした。