障害がなくなったからか。作業は急ピッチに進んでいく。
 しかし、それとは裏腹にキラには時間的な余裕が出来ていた。そのおかげで、あちらこちらに出かけることが出来る。
「……これで、二人きりならな」
 デートといえるのではないか。そう呟きながらイザークはため息をつく。
「何? 文句あるの?」
「そうだぞ。私たちからキラを奪っていくくせに」
 フレイの言葉にカガリもまた同意をしてみせる。それに関しては、ある意味反論が出来ない。だが、とイザークは相手をにらみつけた。
「俺だって、ずっと一緒にいられるわけではないんだぞ」
 むしろ、カガリの方がキラに会いやすい状況になるのではないか。
「……一番役得なのは、サハクのお二人だがな」
 それに、カガリはこう言い返してくる。
「あそこはサハクのお膝元だ」
 ついでに、セキュリティに関しても、オーブ一厳しい。そう考えれば、一番安全だと言えるだろう。だが、逆に言えばキラに会いに行くには、正式に許可を得なければいけないと言うことだ。
 自分にそれが与えられるかどうか。全ては、サハクの双子次第だとしか言いようがない。
「毎日、メールするから……」
 だから、とイザークの服の裾を握りながらキラが口にする。
「俺も、毎日メールをする」
 それは当然のことだろう、とイザークは微笑む。
「だが、それとこれとは別問題だろう?」
 せめて、もう少し思い出が欲しい。それなのに、こうして毎回毎回御邪魔虫が付いてきてはそれもままならないだろう。イザークはそう主張をする。
「ようやく、想いが通じ合ったのに」
 フレイはともかく、カガリにそんな時間があるのか……と思わず口にしてしまった。
「……言われてみれば、そうだね」
 ムウさんもトダカさんも忙しく走り回っているって聞いたけど? とキラは彼女に視線を移しながら首をかしげてみせた。
「……まぁ、そうなんだが……」
 分が悪くなったのか。カガリが視線を彷徨わせ始める。
「一応、邪魔しておけと言われたからな」
 無駄だと自分は思っているのだが……と彼女はさらに言葉を重ねた。
「誰に?」
 キラがこう聞き返している。
「……想像付いているじゃないのか?」
 自分に命令できる人間が、他にいると思うか? と彼女は逆に問いかけの言葉を口にした。その瞬間、キラが深いため息をつく。
「どうして、カナード兄さんは……」
 他のみんなも――一応とはいえ――納得してくれているのに。そう付け加える彼の頭に、イザークはそっと手を置いた。
「あの人は、お前が心配なだけだろう」
 だから、そんな表情をするな……とイザークは彼に微笑みかける。
「そうかな?」
 少しだけ目を細めると、彼は聞き返してきた。
「そうだろう」
 頷き返してやれば、ほっとしたような表情を作る。
「……やぶ蛇だったか?」
 ひょっとして、とカガリが呟く。
「暑いわね」
 フレイはフレイでこんなセリフを口にする。
 まぁ、このくらいは覚悟していたけれど……と彼女は付け加えた。
「文句があるなら、早々に別行動をとるんだな」
 即座にイザークは笑いと共に言葉を投げつける。その表情が自慢げなのは、言うまでもない事実だ。
「そういうなら、一時間でいいから、あたしにキラを貸しなさいよ!」
 会いにくくなるのは自分も同じだ! とフレイは怒鳴り返してくる。
「否定はしないが……それなら、そうだな。他のキラの友人達も呼んでこい。それならば半日、まで妥協しよう」
 キラも彼等とゆっくり話をしたいだろうからな。そう言って笑ってみせた。その笑みがどこか自慢げだったのはしかたがないことだろう。
「本気?」
「本気だ」
 そいつらも、キラと別れを惜しむ時間が欲しいと思っているだろうから。イザークのこの言葉にフレイはふっと笑ってみせる。それは実に彼女らしい笑みだった。
「お礼は言わないわよ?」
 当然の権利だから、という彼女にイザークも笑い返す。
「もちろんだ。構わないだろう、キラ?」
 そのまま、視線を隣にいる彼に移動した。
「そうしてくれれば、僕は嬉しいけど……いいの?」
「お前が喜んでくれるのが一番だからな」
 そう言えばキラは嬉しそうに微笑んでくれる。
「またかよ……」
 あきれたようにカガリが呟けば、
「もう諦めるしかないわね」
 フレイはこう言いながら天を仰ぐ。
「そうだな」
 くっついたばかりの連中に何を言っても無駄だったな、とカガリも同じように人工の空を見上げる。
 できれば、もう少し早くその事実に気が付いて欲しかったな、とイザークは心の中で呟いていた。