しかし、この現実をどう受け止めればいいのか。
「……もう一度言ってくれ、ディアッカ」
 額を抑えながら、イザークはこう問いかける。そんな彼の隣ではキラも目を丸くしていた。
「とりあえず、厄介ごとは全部片づいたから。といっても、ここのカレッジ内でのことだけど、な」
 オーブ本土や地球連邦の方ではまだくすぶっているようだが……と彼は続ける。
「だからといって、引っ越しがなくなったわけではないようだけど、さ」
 むしろ、早急にと考えているらしい。
「その方が安心して研究を出来るからだろう」
 しかし、とイザークは憮然とした表情のまま続けた。
「そう言うことなら、事前に連絡をして欲しかったな」
 何も知らないうちに全てが終わっていたと言うことが気に入らない。言外にそう付け加えれば、ディアッカが意味ありげな笑みを向けてくる。
「言ってよかったのか?」
 あの時に、と彼はその表情のまま問いかけてきた。
「聞いていたら、お前のことだ。絶対に駆けつけてきたよな?」
「当たり前だろう?」
 それが自分の義務ではないのか。言外にそう付け加える。
「キラを一人にして、か?」
 しかし、この一言に思わず凍り付く。冷静に考えてみればそう言うことになるのか。
 頭に値が上がってしまっていた……と言えば、それだけかもしれない。
 だが、そのせいでキラに不安を与えてしまったとしたら後悔などと言うものではない。実際、キラの指がイザークの服の裾をしっかりと握りしめていた。
「……確認ぐらいはしても構わないだろうが」
 状況さえ認識できれば、すぐに戻ったさ……と付け加えたのは、もちろん、負け惜しみだ。
「キラだって、自分が知らないところであれこれされていたのはいやではないのか?」
 どうやら、ディアッカの言葉から判断すれば、その場にはフラガ達だけではなくシンもいたのではないか。そう考えれば、自分たちだけ蚊帳の外に置かれていたと言うことになる。
「……うん」
 その事実に気付いたのか。キラも小さく頷いてみせた。
「だから、キラに気付かれたら意味がないだろう?」
 守るべき存在が前線に出てきては、それも難しいじゃないか。ディアッカはそう言い返してくる。
「それに……もし、知っていたら、そういう関係まで進めなかったんじゃないのか?」
 さらに付け加えられた言葉に、キラは真っ赤になる。隠れ場所を探しているのか。さらに周囲を見回している。
「ディアッカ」
 そんなキラの体を、イザークは腕で包み込んだ。ついでに頭の上からブランケットを掛けてやる。
「悪い。でも、こういう機会でもなければ、お前らくっつかなかったじゃん」
 まぁ、こっちとしてもその方がありがたかったけどな。そう言って笑う。
「……だから、そう言うことを本人達の前で言うな!」
 自分はともかく、キラの方は今にも憤死しそうだ。それを感じ取って、イザークはこう告げる。
「そうしたいのは山々だけどな……他の人にもばれているぞ」
 フラガは実に楽しげな表情をしていた、とディアッカは言い返してきた。その瞬間、キラが泣きそうな表情になる。
「キラ?」
 いったいどうしたのか、とイザークは彼の顔をのぞき込む。
「後で、絶対にからかわれる……」
 それだけならばいいけれど、とんでもないものを押しつけられる可能性がある……とキラは続けた。
「あぁ……あの人ならやりかねないな」
 ディアッカは頷いてみせる。
「……大丈夫だ。俺が側にいるだろう?」
 問題は、自分がどこまで対抗できるか……かもしれない。だが、キラを矢面に立てることはないだろう。
「はいはい。のろけはそこまでにしておいてくれる?」
 独り身にはまじで辛いから……とディアッカは笑いながら口にした。
「そう言えば、フラガさんから言付けがあったんだっけ」
 今、思い出した……と彼はいきなり言い出す。
「お前……」
 重要な内容ではないのか、とイザークは彼をにらみつけた。
「個人的な内容だって」
 まぁ、重要といえば重要かもしれないが……と低い声で彼は笑う。
「ディアッカ!」
 何を言いたいのか! とイザークは思わず怒鳴ってしまった。その瞬間、キラが身をすくめてしまうほどだ。
「あぁ、すまない」
 そんな彼に、イザークは慌てて謝る。
「ううん……気にしないで」
 それよりも、自分も聞きたい……とキラは付け加えた。彼はその言葉に何か不安を感じているのかもしれない。
「……キラなら想像が付いているのかもしれないがな」
 苦笑を深めながらディアッカは口を開く。
「自分はともかく、カガリとカナードは今ひとつ納得していないから、首を洗って待っていろ、だそうだ」
 この言葉に、イザークはため息をついた。
「あの二人なら、そうか」
 十分にあり得るか、とさらに言葉を重ねる。しかし、カガリはともかく、カナードを相手にして自分は無事でいられるだろうか。
「……死ぬなよ」
 ディアッカのこの言葉が耳にいたかった。