それにしても、とベッドの上に仰向けに横になりながらイザークは考える。
 知れば知るほど、キラには謎が増えていく。しかし、それがいやではないのだ。
「いつかは、話してもらえるといいんだがな」
 自分だって、彼に話せないこともあるのだから、と苦笑と共に付け加える。だから、いやだと感じないのだろうか。
 それとも、相手が《キラ》だからだろうか。
「まぁ、最初の頃に比べればかなり懐いてくれただけでもいいじゃね?」
 呟きが聞こえたのだろうか。ディアッカが笑いながらこう言ってくる。
「コーヒー飲むか?」
 淹れるけど、と彼はさらに言葉を重ねてきた。
「もらう」
 今の時間に飲めば眠れなくなる可能性はある。だが、今晩はその方が都合がいい。
「いつ、あの人が来られるのか、わからないからな」
 昼間ではキラに気付かれる可能性がある。それはわかっているが、せめて時間だけは指定してほしい。
「あの人は、俺たちが普段は学生をしていると忘れているわけではないだろうな」
 昼間は普通に講義がある。その他の時間にもレポートを提出するための作業をしなければいけないのに、とそうため息をつく。
「寝不足のせいで、キラを傷つけることになった……と言う事態になったら泣くに泣けないだろうが」
 思わずこんなぼやきが口から出てしまう。
「しかたがないんじゃね? あの人からすれば、俺たちは学生ではなく部下なんだろうし」
 軍人である以上、二日や三日の徹夜で文句を言うな……と言いたいのではないか。ディアッカはそう言い返してくる。
「第一、徹夜なんてキラでも平気でしているぞ」
 意外なことに、キラは作業をしていての徹夜は平気らしい。もっとも、普段はシンに厳しく言われるのか適当なところで眠っているようだが。
「……もっとも、そのせいでよくこけたりぶつかったりしている可能性はあるか」
 あれはあれで、可愛いんだが…、見ているとはらはらするよな……と彼は締めくくる。
「だから、シンが無理矢理にでもベッドに押し込むんだろう」
 きちんと睡眠さえとっていれば、少なくともどこかに激突することはなかったはずだ。
 もっとも、よっぽど何かを考え込んでいるときは別だろうが。
 しかし、最近は歩きながら考え事をする機会は減っているらしい。ひょっとしたら、それは自分と共に寮に帰ってきているからだろうか。
「後は、レイか」
 二人がかりであれこれ言われれば、キラも従わざるを得ないし……とディアッカが苦笑と共に頷いたときだ。部屋の端末が来客を告げてくる。
「おいでか?」
 こう言いながら、ディアッカが視線を向けた。しかし、すぐに手元のカップに戻す。
「俺がでる。お前はもう一つカップを用意しておけ」
 多めに淹れてあるのだろう? と問いかければ、彼は頷いてみせる。
 それに言葉を返す代わりにイザークは行動を開始した。ベッドから降り立つと、真っ直ぐに端末へと向かう。
「はい?」
 どなたですか? と問いかけたのは目的の人物ではない可能性を考慮してのことだ。
『イザーク、さん……』
 しかし、それが功を奏するとは思ってもいなかった。
「キラ?」
 どうかしたのか、と口にしながら反射的にドアのロックを解除する。そうすれば――既に眠りの中にいたのだろうか――パジャマ姿のキラが立っているのが見えた。
「……さっき、部屋にムウさんとラウさんが来て、イザークさんの所に行っていろって……」
 シンはカガリの所に行っているから、とそうも彼は続ける。
「ともかく、入れ」
 手を伸ばすと、彼の体を自分の方に引き寄せるようにして入室を促した。
「コーヒー、淹れたから飲んでいろ」
 それと入れ替わるようにディアッカが部屋の外に出て行く。
「何かったら、イザークの携帯に連絡を入れる。だから、決して部屋から出るなよ」
 ついでに、ナニかあったら連絡をくれれば帰ってこないから……と意味ありげな表情で彼は続ける。
 その言葉が、最初は理解できなかったのだろう。きょとんとしたような視線をキラは彼に向けた。だが、時間をおけば理解できたらしい。彼の頬が真っ赤に染まっていく。
「ディアッカ!」
 余計なことを言うな! とイザークは彼をにらみつける。
「……冗談だって」
 半分だけだけどな、と苦笑と共に付け加えたところから判断をして、やはり故意なのだろう。
「まぁ……イザークは置いていくから。安心して甘えていていいぞ」
 邪魔者は出て行くから、と付け加えると同時に、彼はそのまま廊下に出て行く。相変わらず、イザークが爆発をしそうなタイミングをよくわかっている。
「まったくあいつは……」
 困った奴だ、とため息をつきながら彼へと視線を向けた。そうすれば、緊張しまくっているのがわかってしまう。
「約束しただろう?」
 そんな彼を安心させようと優しい口調で話しかける。
「お前がその気になるまで、待つと」
 自分は約束を違えるような人間ではない。そうも付け加えた。
「それとも、お前は俺を疑っているのか?」
 こう問いかければ、キラは首を横に振ってみせる。
「そうじゃなくて……僕の方」
 問題なのは、とキラは呟く。その言葉にイザークは小さくため息をついた。
「それについてもゆっくりと話をしよう」
 ともかく、まずは落ち着け。そう言いながらキラを椅子へと誘う。それに、キラは素直に従ってくれた。