ディアッカの気遣いが実を結んだのか。キラはデュランダルと共に戻ってきた。その事実に、イザークはほっとする。
「ご苦労様だったね」
 いつのも笑みと共にデュランダルはこう言ってきた。
「いえ……何事もなくてよかったです」
 それにイザークも微笑みを浮かべながら言葉を返す。
「それで、これはどうします?」
 ディアッカが背中を踏みつけながら問いかけた。もっとも、未だに意識が戻ってないようだから、そんなことをしなくても大丈夫なのではないか、とは思う。同時に、少しやりすぎたかもしれない、とも考えていた。
「今、オーブ軍の方が引き取りに来るそうだよ」
 どこか楽しげにデュランダルが口にする。
「せっかく、休暇でシン君に会いに来ていらしたのに」
 それを補足するかのようにキラはこう続けた。
「だが、それならば確実に信頼できる方なのではないか?」
「そうだけど……今、オーブも大変なのに」
 特に軍は、とキラはため息をつく。
「でも、そろそろ、来期の希望者のためのオープン・カレッジも始まるから、来て頂いてありがたいですけど」
 シンも、久々に彼と妹に会えて喜んでいるし……とそうも付け加える。ということは、その軍人はシンの後見人だという人物なのだろう。
「なるほど。シンの妹の保護者として来ている訳か」
 なら、誰も文句は言えないよな……とディアッカは頷いてみせる。
「まぁ、それもそう長い期間ではないだろうけどね」
 ラボ移転の準備も進んでいることだし、とデュランダルは笑う。
 その事実は知っていたはずなのに、実際に耳にするとショックなのはどうしてなのだろうか。
 そんなことは考えなくてもわかっている。
 こうして、日常の中でキラと出会うことがなくなるからだ。
 それがキラの安全に繋がるし、その程度のことで彼が簡単に心変わりをしないこともわかっている。それでも、やはり不安を消せない。それは当然のことなのだろうか。
 口ではあんな事を言っていたのに、現実として突きつけられたらこれか。自分の器の小ささにあきれたくなる。
「……イザークさん?」
 黙ってしまった自分を気にしてか。キラが心配そうに声をかけてくる。
「あぁ、何でもない」
 そう言って微笑みを向けた。
「そうは見えませんでしたけど」
 しかし、キラは騙されてくれない。他人のことだと鋭いのに、どうして自分のことには鈍いのだろうか。
「……その情報が漏れれば、最後に何かあるかもしれないな。そう思っただけだ」
 何もないことが一番いいのだが。そう、もっともそうなセリフを口にする。
「うわっ……それって、十分あり得るよな」
 ディアッカが思いきり嫌そうな表情でこう呟いた。
「その時のために準備はしてあるよ」
 心配はいらない。そう言ってデュランダルは微笑む。
「まぁ、君達にも協力して貰うことになるだろうが」
 特に、キラをはじめとした者達への側にいて貰いたいからね……と彼は続ける。
「そう言うことでしたら、いくらでも」
 イザークは微笑みながら言葉を返す。
「ついでに、シン・アスカのお守りも、ですか?」
 それとも、それはレイがするのだろうか……とディアッカも口を挟む。
「どうなるだろね、それに関しては」
 苦笑と共にデュランダルがこう言ってきた。
「シン君も、お守りが必要な年齢だとは思いませんが?」
 キラがため息とともに彼をフォローする言葉を告げる。しかし、それがフォローになっていないように思えるのは錯覚だろうか。
「キラさま! それに、デュランダル博士」
 その時だ。周囲に聞き覚えがない声が耳に届く。反射的に身構えるが、キラ達は逆に微笑みを浮かべている。ということは、彼の知り合いなのだろう。
「こちらです、トダカさん」
 キラがその表情のまま声をかける。
「でも、キラさまはやめてください」
 自分はあくまでもただの一民間人だ。そう言って微笑みに少しだけ苦いものを加えている。
「いえ。キラさまはキラさまです」
 まるで言葉遊びのようなその会話に、イザークはふっと疑問がわき上がってくるのを感じた。
 カガリ・ユラ・アスハといとこだとは聞いていたが、それ以外に何か理由があるのだろうか。
「ともかく、ご無事で何よりです。これは、私の方で引き取らせて頂きます」
 そう言いながら、彼は己の背後に付いてきた部下らしき者達に合図を送る。
「イザーク君。ディアッカ君」
 その行動を見ていたデュランダルが二人に向かって声をかけてきた。それに頷くと二人とも意識を失ったままの犯人を彼等に渡す。
「ところでキラさま……」
 そのままキラの側に移動をしていけば、トダカの声がまた耳に届く。
「シンはご迷惑をおかけしていませんか?」
「大丈夫ですよ。時々、僕の方が迷惑をかけていますから」
 苦笑と共にキラはこう言い返している。
 いきなり始まった保護者と先輩の会話に、イザークの口元にも、気が付けば苦笑が浮かんでいた。