「……どうして、イザークさん達が……」
　信じられない、とキラが目を丸くしている。
「バカを見つけたから、確保しただけだって」
　そんな彼に向かってディアッカが苦笑と共にこういった。
「ラボを破壊されると困るからな」
　色々な意味で、と彼はさらに言葉を重ねる。それは嘘ではない。そして、それでごまかされてくれる、とそう思っていたのだ。
「……でも……」
　そんな危険なこと……と彼は言い返してくる。
「二人いたからな。それに……不本意だが、ある程度の訓練は受けている」
　立場が立場だから、とそうも付け加えた。
「……本当に？」
「本当だ。それとも……キラは、俺の言葉が信じられないのか？」
　これが卑怯な問いかけだと言うことはわかっている。しかし、自分とキラの出会いが誰かの作為によるものだと知られたくない。
「……そういうわけじゃないけど……」
　でも、とキラは視線を揺らす。
「イザークさんもディアッカさんも、ケガをしたらいやだから……」
　訓練をしていても何があるかわからないだろう。キラはそうも付け加える。
　キラの不安は間違ってはいない。自分一人であれば、イザークだってこんなことはしなかったといえるのだ。
「だから、二人だったんだって」
　こいつと俺なら、大丈夫だからさ……とディアッカは笑いながら口にした。
「一人だったら、通報して終わりだったって」
　もっとも、そのせいでキラ達に被害がでそうだったら、飛び込んでいたかもしれないが。彼はそうも付け加える。
「ディアッカさん」
　その言葉に、キラは驚いたように彼の顔を見つめた。それが少し面白くはない。
「こいつが、こんな風に人間的な表情をするようになったのはお前と会ってからだから、な」
　そういう意味で、腐れ縁の悪友としては感謝している。彼はそう付け加えた。
「……ディアッカ……一度、とことんまで話し合うか？」
　思わず、イザークはこう口にする。
「以前は、こういう前にぶん殴ってきたんだぜ、こいつ」
　本当に人間らしくなったよ。そう言って笑う彼は、一度本気で叩きつぶしておかなければいけないのではないか。イザークは本気で怒りを押し殺せない。
　こっそりとディアッカの頭を殴りつけてやろうか。
「そうなんですか？」
　そう考えたが、キラにこう問いかけられては実行に移すわけにはいかない。
「……話すよりも楽だったからな」
　言ってもわからない奴には特に、とため息とともに告げる。
「しかも、こいつはよく、人の話を忘れるし」
　ペットのしつけと似たようなものだ、と付け加えれば今度はあきれたような視線をキラはディアッカへと向けた。
「……イザーク……」
　頼むから、あまり自分のイメージを壊さないでくれ。ディアッカはこう言ってくるが、イザークはそれを無視する。
「それよりもキラ。デュランダル博士を呼んできてくれないか？」
　これが目を覚まさないうちに、と付け加えながら、足元で気を失っている不埒ものを指さす。
「ついでに、警備にも連絡をします？」
　そちらの方が優先だった、とキラは付け加える。
「そのあたりはデュランダル博士がわかっているはずだから、大丈夫でね？」
　それよりも、なわか何か、持ってきてくれる方がありがたい。ディアッカのこの言葉に、キラはすぐに頷いてみせた。そのままきびすを返すと駆け出していく。
「ロープなんかいらないだろう」
　彼の背中を見送りながら、イザークはこういう。
「万が一って事があるだろう？」
　それに、とディアッカはさらに言葉を重ねた。
「どのみち、キラは戻ってくるに決まっているからさ。少しでも時間稼ぎになるかなって、そう考えただけだ」
　その間にデュランダルに連絡を受けた警備の者達が来てくれればキラを危険にさらすことはないだろう。そうも彼は続ける。
「確かにな」
　ディアッカの予定通りに物事が進んでくれれば、話は楽なのだが……と思いながら、イザークも頷いてみせた。
「でなくても、デュランダル博士がうまくごまかしてくれるだろうから、さ」
　自分たちの正体について……と言われた瞬間、イザークの口からは思い切りため息が出る。
「本当に、キラに見られたことだけが失態だったな」
　これで彼に嫌われたらどうしようか。そう考えれば不安になってしまう。
「大丈夫だって」
　その程度でキラに嫌われるはずがない。ディアッカはこう言って笑った。
「だから、もっとキラを信じてやれよ」
　キラだって男だ。守られるだけの存在ではないぞ、と彼は付け加える。
「それはわかっているつもりだが……」
　だが、守られて欲しい。少なくとも自分には。そう考えてしまう自分に、イザークはひっそりと苦笑を浮かべていた。