それから、しばらくの間、キラは壊されたシステムの再構築で大忙しだった。
 しかし、それ以上にイザーク達も忙しかったと言っていい。キラに気付かれないように日常生活を送りながらも、ブルーコスモスの残党を捕縛していたのだ。もっとも、自分たちはまだ学内だけだったからマシだったのかもしれない。
「アスランの方は寝ている暇もないってさ」
 小さな笑いと共にディアッカが報告をしてくる。
「ご苦労なことだな」
 まぁ、こちらはキラの護衛もしなければいけないから、その差だろう。
「確かに。でもまぁ……発散できるだけマシか」
 ブルーコスモスの構成員や協力員を捕縛するときには遠慮はいらない。それこそ、今までの鬱憤をぶつけても誰も何も言わないのだ。
「否定は出来ないところが……」
 だからといって、それが正しいのかと言えば悩む。
 だが、とすぐにイザークは考え直す。
「キラに危険が及ばないなら、それはそれでかまわん」
 今、自分にとって一番重要なのはその事実だ。それさえ阻止できるのであれば、連中がどうなろうと構わない。
「はいはい。お前ならそういうよな」
 ラブラブだもんな、とディアッカが笑う。
「そう言えば、キラとは会っているわけ?」
 お互い忙しいようだが、と彼はさりげなく話題を変えてくる。
「何とかな。同じ寮というのは、その点ありがたい」
 部屋も近いから、一日に一度は話をすることも出来る……とイザークは微笑む。もっとも、その時に見るキラの目の下にくっきりと刻まれた隈は気になるが。
 しかし、それは自分も同じなのではないだろうか。
「ゆっくり話が出来ないときは、メールが来るからな」
 そこに自分の体調を気遣うような文言を見つければ嬉しくなる。もちろん、自分もそれは書いているが、彼も同じような気持ちになってくれているだろうか。
 そうあって欲しい。
 こう考えるだけで、自然に口元がほころんでしまう。
「……ひょっとして、やぶ蛇だった?」
 今のセリフは……とディアッカは呟く。
「のろけを聞きたかった訳じゃないんだが……」
「甘いな」
 お前の考えが、とイザークは笑う。
「俺たちの関係を知っているお前達以外の誰にのろけろ、というんだ?」
 さらに、こうも付け加えてやる。
「はいはい。俺が悪かったよ」
 俺もさっさと恋人でも見つけようかな……と彼はため息をつく。
「悔しかったら、そうするんだな」
 勝ち誇った笑いと共にこう言えば、さらにディアッカは肩を落としてみせた。
「恋人が出来たことで、ここまであれこれ言われるとは思わなかったな」
 出来たとしても、もっと普通かと思っていた……と彼はそのまま付け加える。
 もっとも、それに関しては自分も同じだ。こんな風に舞い上がるようなことはない、と信じていたのだ。
 だが、誰かを好きになったのも、キラが初めてだと言っていい。だから、想像と堅実が違っていたとしてもおかしくはないのではないか。
 それとも、相手がキラだからか。
「お前が誰かと恋仲になったときには、ちゃんとのろけも聞いてやるさ」
 だから、今はあきらめろ、とイザークは続ける。
「はいはい。その時にはお前も逃げ出すようなのろけを口にしてやる」
 待っていろと妙なことで燃え上がっている彼に、はたして恋人は出来るのだろうか。ふっとそんなことも考えてしまう。
 しかし、彼であればその気になればすぐに見つけられるのではないか。もっとも、速攻で降られる可能性も否定できないが……と心の中で呟く。
「そろそろ、雑談は終わらせるぞ」
 真面目に仕事に戻ろう。そう言いながら、視線を窓の外へと向ける。
 そこには、目標が確認できた。
「あっちは、デュランダル博士のラボか」
 別方向に歩いていくなら無視しておいたんだけどな……とディアッカは先ほどまでとが違う意味でため息をつく。
「そういう意味でバカだからこそ、ブルーコスモスなんかに騙されるんだろうが」
 オーブでも確かに差別がないとは言わない。しかし、そのせいで自分の同胞を全て憎むのは筋違いではないだろうか。キラやシンをはじめとした者達のようにそれを乗り越えられる者達もいるのだ。
「努力をしないで、すねる奴は最低だよな」
 ディアッカもそれに頷いてみせる。
「ということで……行くか?」
「そうだな」
 後を追尾して、まずい行動をとったならば即座に捕縛しなければいけない。
 それが今の自分たちの役目なのだ。
 頷きあうと二人は立ち上がる。そして、そのまま行動を開始した。

 しかし、それをキラに見られるとは思ってもいなかった。