しかし、前の時はキラが先に眠っていた。だから、抱きしめるだけですんだのだが、今回はそういうわけにはいかない。
「……えっと……」
 キラも同じような心境なのか。困ったように視線を彷徨わせている。
 それとも、たんに意識しているだけなのか。
 後者であって欲しいと思うのはワガママなのか、とイザークは心の中で呟く。思いを確かめ合って初めての夜なのだ、考えてみれば。
 だからといって、すぐに、どうこうしようとは考えていない。
 もちろん、したくないと言えば嘘になる。しかし、そこまで急速に物事を進めなくてもいいだろう、と思う気持ちもあるのだ。
「そんなに緊張をするな」
 キラが望んでくれるまで待つくらい何でもない。
 そう考えて、イザークは優しく微笑む。
「イザークさん」
 それに、キラは驚いたような表情を作る。
「無理をして体をつなげることはない。大切なのは気持ちだからな」
 違うのか? と言う問いかけにキラは小さく頷いてみせた。
「だから、今日の所は抱きしめるだけでいい」
 そう言いながら、そっとキラの頬に手を添える。
「それだけでは、不満か?」  さらにこう問いかければ、キラは小さく首を横に振ってみせた。
「でも……本当にいいの?」
 それでも不安なのか、キラはこう問いかけてくる。
「腕の中にお前がいてくれることが一番重要だよ、俺には」
 言葉とともにそっと手の位置を移動した。そして、そのまま彼の細い体を静かに抱き寄せる。
 その動きに逆らうことなく、キラの体はイザークの胸の中へとおさまった。しっかりとした重みが幸せへとすり替わっていく。
「だから、焦らなくていい。俺たちには俺たちのペースがあるからな」
 そうだろう? と問いかければキラは腕の中で小さく頷いた。
「なら、今日は寝るか」
 流石に疲れた、と付け加えれば、キラは心配そうな視線を向けてくる。
「何。一晩寝れば治るさ」
 だから、といいながらベッドに横になった。もちろん、その腕に抱かれたキラも一緒に、だ。
「このまま付き合ってくれ」
 今日の所はそれだけでいい、と笑う。
「うん」
 どこかほっとしたような口調でキラは頷いてみせる。そのまま居心地のいい場所を探すかのように体をうごめかした。
「おやすみ」
 彼の動きが止まったところでイザークはこう声をかける。
「お休みなさい」
 言葉とともにキラはイザークの胸に頬をすり寄せてきた。そのままそっと目を閉じる。
 すぐに彼の穏やかな寝息が響き始めた。それを耳にしているうちにイザークにも次第に眠気が襲ってくる。素直に彼は、それに身を任せた。

「……お前って、不能?」
 キラに手を出さなかった、と告げた瞬間、ディアッカはこんなセリフを口にしてくれた。
「殴られたいか?」
 そんな彼に向かって、イザークは即座にこう問いかける。
「それはごめんだけど……」
 だけどさぁ、と彼は両手でイザークの攻撃をブロックしながら言葉を口にし始めた。
「普通なら、据え膳は食うもんじゃねぇのか?」
 というか、自分なら確実に食う。そうディアッカは断言をする。
「貴様ならそうだろうな」
 だが、とイザークは続けた。
「今のキラは、既に許容範囲いっぱいのように思うからな。それ以上のことはやめておいた方がいいか、と思っただけだ」
 機会はまだあるだろうからな、とそう言って笑う。
「俺は、キラを追いつめたいわけじゃない。大切だからこそ、笑っていて欲しい」
 そうも付け加えれば、ディアッカは『参りました』というように両手を肩のあたりまであげてみせた。
「だから、あの怖い方々にも認められたんだな、お前は」
 自分では無理だ、と彼は付け加える。
「……別に、認められなかったとしても諦めなかったと思うがな、俺は」
 キラがキラである以上、自分は惹かれただろう。そう言って笑う。
「はいはい。ごちそうさま」
 本当に、イザークからのろけられる日が来るとは思っても見なかった……と彼はため息とともに口にする。
「しかし、まじでよかったのか?」
 これからあれこれ忙しくなるんだろう? とディアッカは表情を引き締めながら問いかけてきた。ひょっとしたら、もう機会はないかもしれない。そうも彼は口にした。
「それならそれで構わないさ」
 自分がキラを好きで、彼も同じ気持ちでさえいてくれれば、何年だろうと待てるはずだから。少なくとも自分はそう思っている。イザークはそう言って笑った。