いったい誰の気遣いだろうか。
 近くのホテルに一室が確保されている、とディアッカが伝言を持って返ってきたのはイザークが爆発をする寸前だった。そのあたりのタイミングは流石だと言っていいのだろうか。
 しかも、内容が内容であったから、誰もがそれ以上文句も言えない。
 きっと、こんな風にいらつくのは部屋に閉じ込められていたからだ。
 だから、早々に移動をしよう……そういいだしたのは誰だっただろうか。だが、異論が出なかったと言うことはみなが同じ気持ちだったのだろう。そう判断をして、ラスティが運転するエレカで移動をしたのだ。
 しかし、ホテルにとおされて部屋に通された瞬間、誰もが目を丸くした。
「……マジ?」
 最上階のスイートルームが用意されているなんて、誰が想像をするだろうか。
 だが、とイザークは心の中で呟く。
「部屋数は三つあるな」
 フレイは一部屋使えばいいだろうし、後は適当に二人ずつに別れればいい。
 何よりも、この方がいざというときの対処が楽ではないか。おそらく、この部屋を用意した人間も同じように考えていたのではないかと思う。
「あぁ。って事は、お嬢ちゃんが一部屋使って……後は二・二に別れればいいって事だな」
 ディアッカも同じように判断をしたのだろう。こう言って頷いている。
「ということは……俺とディアッカが同じ部屋か?」
 こう言ってきたのはラスティだ。
「それが無難だろうな」
 ディアッカもあっさりと同意している。
「……どうしてですか?」
 意味がわからない、とキラが彼等に問いかけた。
「そりゃ、馬に蹴られたくないからだろう」
 即座にディアッカがこう言い返してくる。
「……あの……」
 ますます訳がわからない、というようにキラが首をかしげた。
「要するに、イザークに恨まれたくないってことだよ」
 好きな相手が他の誰かと同室になると不安になるものだろう? とラスティが苦笑と共に口にする。それを耳にした瞬間、キラは小さな呟きと共にイザークを見上げた。
「そいつらは一応信用しているがな。でも、やはり同室の方が安心だ」
 この状況ならばこのようなことを口にしても大丈夫だろうか。そう思ってイザークは苦笑と共に言葉を口にする。
「イザークさん……」
 それに、キラが驚いたように目を丸くした。あるいは、自分はこんなセリフを言わないと思われていたのだろうか。
「俺だって、普通の男だからな」
 そういう感情はあるさ、とイザークは笑ってみせる。
「普通はそういうもんよ」
 まぁ、キラだから……とフレイが苦笑と共に口を挟んできた。
「サイもトールも、あたしやミリィがキラと出歩いても何も言わないもんね。そのせいで余計ににぶにぶさんになったのかしら、キラは」
 だとしたら、自分たちにも責任があるな……とフレイは呟く。
「いや。あの様子だと他の面々もかなり過保護なようだからな。そのあたりも関係しているのではないか?」
 特に、カガリ・ユラ・アスハとカナード・バルスだろうか。そう呟くイザークにキラはため息をついた。
「反論して上げられないんだよね、その二人に関しては」
 キラですらそう言うようなことをしていると言うことか。確かに、あの二人ならばやりかねない。
 そんな二人からキラを完全に切り離すことは難しいだろう。
 このままキラの側にいるのであれば、あの二人の干渉になれる必要があるのだろうか。
 ふっとそんなことも考えてしまう。
 キラを悲しませるようなことがなければ大丈夫なのではないか。そういう結論に達する。
「というわけで、部屋割りはそれでいいわね?」
 フレイがこう結論づける。
「あたしは、あちらの部屋を使わせて貰うわ。部屋にバスルームも付いているし、ゆっくり出来そうだもの」
 こう言うと同時に、彼女は返事も待たずにさっさと移動を開始した。もっとも、それに文句を言う者は誰もいなかったが。
「まぁ、鍵をかければ、あいつも安心だろうしな」
 ディアッカがぼそりと呟く。
「ということで、俺たちはこっちを使うわ。ベッドが二つあるから」
 残りの部屋を確認していたラスティが笑いながらこう言ってくる。
「お前らは、同じベッドでも構わないよな?」
 こう言われて、その意図がはっきりとわかってしまった。
「ラスティ!」
「だって、俺、ディアッカと同じベッドなんていやだもん」
 恋人ならともかく、これだぞ、これ……とラスティはディアッカを指さしながら口にする。
「これがアウトドアとか何かって、必要な状況ならまだしも、ベッドがあるのに絶対いやだぜ、俺は」
「俺だっていやだ」
 負けじとディアッカも言い返す。
「というわけで、後はよろしく」
 そのまま、二人は逃げ込むようにもう一つの部屋へと駆け込んでいく。
「……キラ……」
「まぁ、しかたがないんじゃない?」
 イザークとならば、同じベッドでも気にならないし、とキラは笑う。その笑みが困るのだ、と本人は気付いているだろうか。
「そうだな」
 だからといって、無理強いなんてできるはずもない。そう考えながらイザークは頷いてみせた。