とりあえず安全だろう。そう判断をされたのは夜が更けてからのことだ。
「どうする?」
 流石に、これから寮に帰って後始末をするのは厄介ではないか。だからといって、ここに泊まるのもなんだし……とディアッカが問いかけてくる。
「そうだな。俺たちはいいが、女性は困るだろう」
 シャワーを浴びたいんじゃないのか? と彼はそう付け加えた。
「そうね。そうしたいわ」
 女なら、当然の身だしなみよ……とフレイは言い切る。
「でも、ここだと難しいわけね」
 状況を察したのだろうか。彼女はすぐにこう付け加えた。
「まぁ、な。一番の問題は着替えな訳だが……」
 今日だけ我慢してくれるなら調達できるが、とそうディアッカは口にする。おそらく、女性兵用の物資を確保してくるつもりなのだろう。
「……妥協するしかないでしょうね」
 それに関しては、とフレイは呟く。今から買いに行けるわけないし、とも。
「了解。とりあえず……適当に何種類か用意してくるから、自分のサイズに合いそうなのを選んでくれ」
 そのついでに、今晩の宿とついでに晩飯のことも確認してくる。そう言いながら彼は部屋から出て行った。
「ごめんなさい」
 そんな彼の背中に向かってキラがこう声をかける。
「バカね、キラ」
 即座にフレイが口を開く。
「そう言うときは『ごめんなさい』じゃないでしょう? あんたが迷惑をかけている訳じゃないんだから」
 今回の場合、迷惑をかけているのは自分ではないか。そう彼女は続ける。
「でも……元は僕のせいだし……」
 キラは小さな声で反論を試みた。声が小さいのは、自分でもそれは意味のない主張だとわかっているのだろう。
「あんたのせいじゃなく、バカのせいでしょう?」
 だから、気にしないの……とフレイはそんなキラの言葉を一刀両断した。そんな風に言い切れる彼女は流石と言うべきなのだろうか。それとも、自分も見習うべきなのか、とイザークは少し悩む。
「あいつが好きでやっているんだ。だから謝罪よりは感謝の声をかけてやってくれ」
 それでも、とりあえずは……と思ってこう告げる。
「……はい……」
 その言葉に、キラは小さく頷いてみせた。
「ついでに、もう一部屋、確保してきてくれればいいんだが」
 自分たちは一部屋でもいいが、フレイが困るだろう。イザークはそう呟く。
「キラとなら同室でもいいけど……あんた達だと、やっぱりいやだわね」
 あっさりとフレイも同意を示してくる。
「……でも……」
 そこまで甘えていいのか。キラは言外に問いかけてきた。
「気にするな。むしろ同室の方があれこれまずい」
 自分たちもそれなりに言われるだろう。だが、それ以上にフレイが困るのではないか。
「流石に、嫁入り前の女性だからな、そいつは」
 嫁に行けるとは思えないが……と付け加えたのは冗談だ。
「あんたね!」
 それが彼女の逆鱗に触れたのだろうか。即座に手近にあった枕を掴むと投げつけてくる。
「あたしだって、ちゃんとお嫁に行くわよ!」
 言葉とともに彼女は真っ直ぐににらみつけてきた。そんなフレイの気の強さを好ましいと思う人間は確かにいるだろうな、とイザークは考える。
「まぁ……婚約は解消されているかもしれないけど」
 しかし、すぐに肩を落として呟くように口にした。
「大丈夫だよ、フレイ」
 サイはそう言う人じゃないから、とキラが慰めるように言う。
「それに……いざとなったら、カガリに頼むから」
 でなければ、ホムラかサハクの双子でもいいのではないか。キラはそうも続ける。
「この中の誰かが後ろ盾になれば、絶対に文句は言われないって」
 そうでしょう? と彼は微笑む。
「それはそうね」
 でなければ、キラのご両親に養女にして貰おうかしら。彼女はそんなことも口にする。
「父さんも母さんも、いやとは言わないと思うけど」
 キラはこう言いながら首をかしげた。
「そうなると、フレイが僕の妹になるのか」
 カガリが怒るかも、と彼女はそうも続ける。
「どうして、そこでカガリが出てくるんだ?」
 意味がわからない、と言うようにイザークは問いかけた。
「カガリも、家の子になりたかったんだって」
 でも、フレイなら文句を言われても平気かな? とキラは笑う。
「そうね。あの子の言葉には悪意はないから」
 だから大丈夫よ、とフレイも微笑み返す。
「それに、きっと、矛先はそいつに向かうから」
 だから、自分は大丈夫。そう言われても、イザークは頷けない。
「何で俺が……」
 ため息とともにこう言い返すのが精一杯だった。