しばらくして、シンが戻ってきた。 しかし、今度は一人ではなかった。ロンド・ミナともう一人、金髪の少女が同行している。その顔に見覚えがあるような気がするのは錯覚だろうか。 「……キラは?」 真っ先に口を開いたのは少女だった。 「まだ眠っている。必要なら起こすが?」 イザークの言葉に、彼女は少し考え込む。 「そうだな。そうして貰った方がいい」 でなければ、話が進まない。いや、進めることが可能だろうが……と彼女はため息をつく。本人の許可なく進めれば、後が怖いから……とため息をついた。 そんな彼女の背後ではシンが苦笑を浮かべている。 彼もそういう表情を浮かべていると言うことはそうなのだろう。 「なるほど」 では、起こすしかないだろうな。イザークはそう判断をすると、そっと移動を開始する。 ベッドの上では、キラがまだ安心しきったような表情で眠りの中を彷徨っていた。しかし、その目元には明確に疲労の色が見て取れる。それだけ、今日の出来事はキラの精神に負担をかけたと言うことだろうか。 本当ならばまだまだ眠りの中にいさせてやりたい。 しかし、それでは彼のためにならない。だから、刀自分を納得させると、イザークはそっと彼の肩に手をかける。 「キラ」 そっとそのまま彼の体を揺すった。そうすれば、彼の瞳がうっすらと開かれる。 「……イザーク、さん?」 まだ寝ぼけているとわかる声でキラが呼びかけてきた。その口元には淡い笑みが浮かんでいる。 「お前に客だ」 そう言いながら、静かにキラの体を抱き起こしてやった。 「……貴様……」 しかし、どうしたことかその行為が少女の機嫌を損ねてしまったようだ。 「私のキラに何をしている!」 言葉と共に拳が飛んでくる。その行動が誰かに似ているような気がするのだが。そう思いながらイザークはキラを抱えたままその拳を避ける。 「危ないだろう」 自分はいいが、キラに被害が及んだらどうするつもりだったのか。イザークはこう言いながら相手をにらみつける。 「私が、そんなへまをするか!」 胸を張って彼女はこう言い返す。そういう問題ではないように思うのだが、とイザークは心の中で呟く。しかし、それを相手にぶつけることは出来なかった。 「カガリ?」 腕の中でキラが不思議そうにこう呟いたのだ。 「どうして、ここにいるの?」 訳がわからない、というように首をかしげてみせる。その様子が本当に可愛らしい。 状況が状況でなければ、キスの一つや二つしてやりたいほどだ。そんな自分の考えに、イザークは内心で苦笑を浮かべる。 「どうしてって……あのバカの後始末だ」 あれこれやらかしてくれたからな、とカガリは笑う。 「お父様が来れば目立ちすぎる。幸いここには先にミナさまも来ていたからな」 流石に、ギナが来ることだけは止めたが、その分、本土で暴れまくっているのではないか。彼女はそうも付け加える。 「……カガリ……」 その言葉に、キラが不安を隠せない様子で呼びかけた。 「心配するな。とりあえずホムラおじさまがフォローのために同行している」 だから、適当なところで止めてくれるはずだ……とカガリは笑い返す。 「ともかく、だ。モルゲンレーテからセイランの手の者は追い出しが決定したからな。今まで以上にお前達に協力が可能なはずだ」 寮に関しても同様だ、と彼女は続ける。 「あちらにはデュランダル博士がいらっしゃるが……正式にアスハが全ての権利を手にしたからな」 というよりも、セイランは国内での力を失うといった方が正しいのかもしれない。カガリはそう言って満足げに笑った。 「……大丈夫なの?」 そんな大事にして……とキラは口にする。 「大丈夫だ。セイランの不正の証拠は山ほど見つかっているからな」 本人達が何を言おうと失脚は当然のことだ。だから、気にするな……と彼女はさらに言葉を重ねる。 「それよりも、私としてはさっさと研究を完成させてくれた方がありがたい」 そろそろ、あれを抑えておくのが難しくなってきた……とカガリはため息をついた。 「……あれって……アスラン?」 それとも、ラクス? とキラは問いかけている。彼の口から出た言葉に、イザークだけではなくディアッカ達も静かに驚いていた。しかし、当人達はその事実に気が付いていないようだ。 「二人とも、だ。まったく……だから、あいつらにはお前に対して面会禁止を言い渡したのに」 しかも、自分だけでは威力がないだろうから、父やカナード達とも連名で、とカガリは憤慨を隠さずに続ける。 「まぁ、あいつらにしてもその前にお前に好きな相手が出来てしまえば諦める……かな?」 よくわからないが、きっと、大丈夫だろう。そう言ってカガリは笑う。 「……頑張れ、イザーク」 ディアッカがからかうようにこう言ってくる。その言葉にまったく応援する感情が含まれていないように感じるのがイザークだけではないだろう。 「イザークなら、ラクスさまと対抗できる!」 ここで《アスラン》の名前を出さなかったことはほめるべきなのだろうか。ラスティの言葉にイザークは悩む。 「……ミナさまやカナード兄さんが認めたんだ。その位して貰わないと困る」 だが、カガリの言葉に思わずむっとしてしまう。 「当然だ」 反射的に言葉がこぼれ落ちる。しかし、それを後悔する気持ちは全くなかった。 |